④知能検査から見る発達障害【当事者による大人の発達障害講座】
皆さま、こんにちは。公認心理師の田中竣也です。このコラムも4回目になりました。ご覧の皆さま、誠にありがとうございます。
今回のコラムでは、医師が発達障害の診断を行う際に使われることが多い、ウェクスラー式知能検査について解説していきます。難しそうなテーマだと思う方もいるかもしれませんが、できる限りわかりやすくお伝えいたします。
知能検査とは
皆さんは、「頭が良い人」と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか?
テストで高い点数を取る人、やるべきタスクを素早くこなす人、人への感受性が強い人など、様々な答えがあると思います。
これと同様に、「頭を使う」ことにも様々なことが考えられます。たとえば、読む、書く、計算する、予想する、想像するなど、挙げていくとキリがないでしょう。このように、「頭が良い」「頭を使う」にも様々な考え方があります。
このコラムではざっくりと、上記のような「頭を使う(知的な活動を行う)」能力全般のことをまとめて知能と呼ぶと考えて頂ければと思います。
そして、その知能を測定するための検査が知能検査になります。
知能検査の種類
知能検査にも、いくつか種類があります。
有名な所では、田中ビネー式知能検査、ウェクスラー式知能検査、K-ABCなどがありますが、今回はウェクスラー式知能検査についてお伝えします。
ウェクスラー式知能検査とは、名前の通りウェクスラー(Wechsler,S.)によって作成された知能検査です。
ウェクスラー式知能検査には3種類あり、日本での最新版は、成人用のWAIS–Ⅳ、児童用のWISC–Ⅳ、そして幼児用のWPPSI–Ⅲがあります。検査を受ける人の年齢により、これらの検査を使い分けます。本稿は【当事者による大人の発達障害講座】と銘打っているため、成人用のWAIS-Ⅳについて解説を行います。
WAIS-Ⅳ(ウェイス4)
WAIS-Ⅳでは、知能(頭を使う能力全般)を①言語理解(VCI)、②知覚推理(PRI)、③ワーキングメモリー(WMI)、④処理速度(PSI)の4つの能力に分けて測定を行い、それらの結果から全検査IQ(全体的な知能)を判定します。
発達障害のある方はこれら4つの能力の凸凹が大きいとされます。この凸凹が、発達障害の人たちの得手・不得手に結びついていると考えられます。
では、それら4つの能力に関して解説していきます。
①言語理解(VCI)
言葉を理解する能力や言葉でやり取りする際の能力を測るものです。また、学習したことなどをおぼえておく長期記憶とも関連が強いと考えられます。
高い人:言葉での指示が通じやすい。言葉を用いて表現したり伝えたりすることが得意。語彙が豊富な場合も多い。
低い人:言葉だけでのやり取りでは不十分であり、相手の伝えようとしていることを捉え違えたり、自分の伝えたいことを言葉で伝えることが苦手だったりする。
配慮例:図や写真、絵などで視覚化し、本人が理解しやすい方法に置き換える。
②知覚推理(PRI)
場面を理解しながら推理や推測をしたり、合理的な行動をしたりする能力を測るものです。また、目で見た物を認識する能力とも関連が強いと考えられます。
高い人:その場の状況に応じて対応することが得意で、新たな場面(学校や職場)での適応がしやすい。視覚での指示が通りやすい。
低い人:自分で考えて行動しなければならない場面や見通しの立たない場面で戸惑いやすい。その場にないものや先行きを想像することが苦手とする。
配慮例:言葉での指示を用いながら、あらかじめ、行動の仕方や見通しを伝えておく。
③ワーキングメモリー(WMI)
耳で聴いた情報を記憶に短期記憶として一時的に保持したり、その情報を頭の中で整理しながら考えたりする能力です。
高い人:口頭での指示が伝わりやすく、聴いたことを一度で覚えてタスクに取り掛かることができる。
低い人:口頭での指示を覚えておくことが難しく、忘れっぽい傾向がある。電話対応が苦手。「なんでさっき説明したのにわからないの」と叱られることが多い。
配慮例:メモ帳などで指示を記録できるようにする。メールやオーダー表など、指示を視覚化して覚えやすくする。
④処理速度(PSI)
作業や情報の処理を素早く正確に行う能力です。そのため、限られた時間内に作業を行うことにも結び付いてきます。
高い人:タスクをスピーディにテキパキとこなすことを得意とする。特に、マニュアル通りに単純な作業をすることに強い場合がある。
低い人:作業速度がゆっくりのため、決められた時間内にタスクを行うことが難しい場合がある。無理に速く作業を行おうとすると、ケアレスミスが増える。
配慮例:「時間をかけても正確に作業を行う」ことができる環境の調整。こまめに休憩を取ったり、作業を区切ったりして集中力を上げる。
以上の4つの能力を基に全検査IQ(FSIQ)を算出し、知能(頭を使う能力全般)の測定を行います。その際、4つの能力にディスクレパンシー、つまり凸凹がある場合は、医師の判断の下に発達障害と診断される可能性が高くなります。
WAIS-Ⅳを受けるには?
このコラムを読んでいる方の中には自分自身が発達障害なのではないかと考え、WAIS-Ⅳの受検を希望している方もいるかもしれません。そこで、WAIS-Ⅳを受けることができる場所に関してお伝えしたいと思います。
①医療機関(精神科病院・心療内科クリニック)
先述したようにWAIS-Ⅳは、医師が発達障害の診断を行う際に用いられることが多い知能検査です。
そのため、発達障害の診断にあたり、精神科病院や心療内科クリニックで医師の指示があれば、保険診療内で臨床心理士・公認心理師が実施するWAIS-Ⅳを受検することができる場合があります。
医師の指示がない場合でも希望すれば受検できる場合がありますが、その際は自費診療(10割負担)となります。また、民間のクリニックでもWAIS-Ⅳを受ける際には自費診療の場合があります。
医療機関で保険診療によるWAIS-Ⅳの受検を希望する場合は、各医療機関に保険適用かどうかを確認する必要があるでしょう。
②民間の心理相談室やカウンセリングルームなど
臨床心理士、公認心理師が個人で開業した、心理相談室やカウンセリングルームなどでもWAIS-Ⅳを受けることができる場合があります。
このような機関でWAIS-Ⅳを受ける場合は、医療機関ではないため保険適用にはならず、自費での受検となります。
相場としては、1万円~2万円といった所が多いようです。保険適用ができないため、料金が割高になりますが、検査経験が豊富な心理職によって実施される場合が多いのがメリットと思われます。
また、民間の心理相談室やカウンセリングルームなどは医療機関ではなく、発達障害の診断はできないため、診断を受けることを希望する場合は、WAIS-Ⅳ受検後にもらえる結果報告のレポートを持って受診することが必要になります。
③臨床心理士受験資格に関する指定大学院の臨床心理センター
臨床心理士を養成する指定大学院に設置されている臨床心理センターでWAIS-Ⅳを受検できる場合があります。
ケースによって異なりますが、臨床心理士や公認心理師といった心理職資格を持つ専任教員や、臨床心理士を志して専門的なトレーニングを受けている大学院生が検査を実施することとなります。
こちらも、医療機関ではないため自費での受検となりますが、料金が数千円程度と格安で受けられるのがメリットです。
ケースによっては、トレーニング中の大学院生が担当になる場合もありますが、臨床心理士や公認心理師の専任教員が指導員としてついているため、専門性がしっかりと担保された環境で受検することができると考えられます。
大学院の臨床心理センターも医療機関ではなく、発達障害の診断はできないため、WAIS-Ⅳ受検後にもらえる結果報告のレポートを持って受診することが必要になります。
WAIS-Ⅳの結果をどのように活かすか
WAIS-Ⅳの受検後には、検査結果に関するレポートが渡されます。
心理士をはじめとしたWAIS-Ⅳの検査者は、単に検査結果だけでなく、検査中の受検者の様子や特徴的な反応・発言といった様々な情報から受検者の特性に関して解釈・考察をし、レポートを作成しています。
そのため、レポートを見る際には、単純な全検査IQをはじめとした数値だけに着目するのではなく、検査者の解釈から得られる情報に対して目を向けることが重要になります。
そうすることで、受検者自身の得意なことと苦手なことを理解し、自身の特性を元に日常生活での様々な場面(学習や仕事など)においてどのように対応すればよいかを認識することができるはずです。
まとめ
もし本稿の読者の中に発達障害を疑ってWAIS-Ⅳを受けたいと考えている人がいましたら、自身の苦手さの原因や隠れた得意さに気づくことで、今よりも上手に、もっと生きやすくなればいいなと思います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。