子どものワガママに対処する/望ましい行動を増やす【育児に役立つ心理学】

こんにちは。臨床心理士/公認心理師の八木経弥です。

今回から育児に役立つ心理学というテーマで連載をスタートします。日々の育児でよく見かける問題について、原因や対処法をお伝えできればと思います。

本稿は子どものワガママにイライラした時の対処法や、望ましい行動を増やす方法について、取り上げていきます。

子どもがワガママな要求を繰り返す理由

子育てをしていると、子どもが自分の要求を受け入れてもらえなくて大泣きする時がありますよね。

そんな時、皆さんはどうしますか?

私は、既に子どもの要求を受け入れられないことを説明している場合、泣きながらの要求(わがままと受け取れるもの)は受け入れないことにしています。

それというのも、心理学には「学習理論」というものがあるからです。

学習理論とは?

あるとき、鳩がカゴの中にあるボタンを押すとエサが出てきました。もう一度押すと、またエサが出てきました。

鳩は、「ボタンを押すとエサが出てくる」ということを覚えて、何度も何度もボタンを押すようになりました。

ある日。ボタンを押してもエサが出て来なくなりました。鳩が何度か続けてボタンを押すと、再びエサが出てきました。鳩は、毎回はエサが出て来なくても、ボタンを何度も押すようになりました。

この時のエサのことを「強化子」と言い、ボタンを押す行動が増えることを「強化」と言います。簡単に言えば、鳩が「ボタンを押せばエサが出る」という仕組みを学習すると、「ボタンを押す」という行動が増えるということです。

エサが出る頻度も行動に影響するのですが、毎回エサが出てくるよりも、たまにエサが出る方がボタンを押すという行動は消えにくいとされています(パチンコがまさにこれですね)。

この理論を子どものワガママにあてはめると、泣いたら自分の要求が通ったという経験を何度も繰り返すことで、「泣けば要求が通る」ことを学習し、何かほしいものがある度に「子どもが泣く」ようになるわけです。

子どものワガママにどう対応するか?

このような学習をさせない方法は、泣きながらの要求(ワガママ)を聞かないことです。以下は私自身の体験です。

事例1:スーパーで、お菓子がほしいと大声で泣く

娘のイヤイヤ期真っ盛りな頃のことです。

夫と娘と一緒にスーパーで買い物をしていると、突然彼女がとあるお菓子が欲しいと言い出しました。しかし、我が家ではまだ年齢的に食べて欲しくないものだったので、買えないことを説明しました。

それでも納得できない娘は、お店中に響くような大声で号泣。抱き抱えても、すり抜けてはそのお菓子の元へ走っていく、ということを繰り返しました。

そのあまりの気迫に「もうええか」と思いそうになりましたが、ここで負けたらそれこそ「大泣きすれば買ってもらえる」と覚えられてしまうと思い、号泣しながら暴れる彼女を夫と2人がかりでかついで、会計を済ませて帰りました。

その結果、二度とお店の中で大声で泣くことはなくなりました。

ワガママを聞かなければよいと頭で分かっていても、実際目の前で泣き続けられるとこちらの気力も削がれます。「もうええか」と思うこともありますが、そんなときは心の中で「学習、学習(遠い目)」とつぶやくのです。「泣いても要求が通らない」ことを学習すれば、次からはこのようなことはなくなります。


この考え方は、お店での「買って欲しい」要求だけではなく、外出先での「イヤイヤ」にも当てはめることができます。下記の事例も、私自身の体験です。

事例2:外出先でオムツを履きたくないと駄々をこねる

私が娘と一緒に外出し、子育て支援センターで用を足したオムツを取った後のことでした。あろうことか娘が「オムツを履きたくない」と主張し始めたのです。

百歩譲って家の中ならオムツなしでもいいにしても、外出先での下半身スッポンポンは許容できません。結構な時間を費やしましたが、ぐずる娘になんとかオムツを履かせ、帰宅することができました。

こちらも、それ以降同じようにオムツを履かないと言うことはなくなりました。

「強化したくない行動を強化しない」というのは、非常に労力を要するものなのかもしれません。しかし、できないものできないという毅然した態度が必要です。

望ましい行動を増やす声がけの方法

それでは、勉強や家事、習い事などの望ましい行動を増やしてもらうためには、どのようにすればよいでしょうか。

増やす方法として、ご褒美として物をあげるという方法と、行動を増やすような言葉がけをするという方法があります。物をあげるというのは、掃除をしたらお小遣いをあげるとか、スイミングの試験に合格したらアイスが食べられる、というものです。

言葉かけとしては、最近(少し前かな?)よく話題になる「褒める育児」がそうです。これは、「褒める」という強化子によって、望ましい行動を繰り返し起こさせるものです。

効果的な言葉かけの方法

ですが、この褒め方もコツが必要です。例えば、子どもが頑張って勉強した結果、いつもより良い点数のテストを持って帰ってきたとき、あなたはどのように声をかけますか?

声がけA

よく頑張ったね!

声がけB

頑張って勉強してたもんね、よかったね

声がけC

あなたはやればできる子なのよ

声がけD

○○点も取れるなんて、賢いね!

この4つの声かけ、どこが違うと思いますか?前の2つは、「勉強する」という行動を褒めています。後の2つは、結果、もしくは子どもの能力そのものを褒めています。それでは、今後、積極的に勉強をするようになるのは、どの声かけだと思いますか?

それは、「勉強する」という過程を褒めることです。そうすると、その行動が強化されます。

「あなたはやればできる子なのよ」という声かけの場合、子どもが生まれ持った能力を褒めているので、もし、努力したことが結果に繋がらなかった場合、「自分はやってもだめなんだ」と、自分自身を否定し、努力すること自体をやめてしまう可能性があります。「賢いね!」という声かけも、結果を褒めているので、その結果に至るまでの努力については注目されていない印象を受けます。

そのため、子どもによっては「○○点以上取らないと認められない」、もしくは点数が取れない時に「賢くないから自分はダメなんだ」といった、こちらが想定していない思考に陥る可能性があります。

また、細かい話にはなりますが、描いた絵を見せてくれた場合などには、「上手だね」といった評価ではなく、「綺麗だね」「良い色だね」「お母さん、この絵好きだな」というような感想を伝えることができると、子どもはのびのびと絵を描くことができるようになります。

まとめ

子どもへの対応って、難しいですね。しかし、私たち親の対応次第で子どもたちが様々なことを学んでくれると思うと、工夫するのも楽しいかもしれません。本稿が育児をされている皆さまのお役に立てれば幸いです。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。