②DV【夫婦間トラブルのケーススタディ】
皆さん、こんにちは。公認心理師の林螢子です。
夫婦間にあるトラブルについてケーススタディで見ていきましょう。人生相談や離婚相談ではありませんので、ご参考程度に、ご自分であればどう考えるか?と読んでいただければ幸いです。
DVが疑われるケース
すみれさんのケース
すみれさんはメーカー勤務の夫、保育園児の娘と3人暮らしです。社内結婚して、地方転勤もあり、すみれさんは退職、現在はパートタイム勤務で子育てを中心においています。
コロナ下で夫は在宅ワークの時間も増え、家事や子育てにも小言が多くなり、息苦しさを禁じ得ません。また、夫は在宅勤務のあいだ、オンライン飲み会などが増え、朝から缶チューハイ片手にパソコン仕事と、飲酒量の増加も気になります。
保育園の送迎にも協力的でなく、娘がパソコンに向かう父親に遊んでと働きかけると、うるさいと大声をあげて、本を投げたのが当たった拍子に娘の口の中を切ってしまい、以来、お父さんが怖いと言います。夫は当てようと思って投げたのではないと認めません。
すみれさんが、子どもにきつい口調で言わないで、物を投げたりしないでほしい、家事やしつけについて細かく口出ししないでほしいと伝えると、偉そうに言うなと、通りすがりに蹴りを入れられ、まともな会話が成立しません。
すみれさんがパートタイムに出ると、何時に帰ってくるんだとうるさく、午前中の仕事終わりの買い物中にも、何時何分に帰ってくるんだ、昼食の時間だと連絡があり、電話に出られないでいると着信履歴が何度も入ってあり、追い回され監視されているようです。
夫はこんな人だったか、これから暴力や乱暴な言葉が増すのだろうかという不安な思いでいっぱいです。
この夫の言動はDVと言われるようなものでしょうか。夫が乱暴な言葉や、手が出るようになったのはいつから、どのようなことからでしょうか。
DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、日本では「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されます。具体的なものを下記に挙げます。
DVの種類
- 身体的DV(殴る/殴るふりをする、蹴る、物を投げる等)
- 精神的DV(怒鳴る、服従させる、外出を禁止する、無視する、嫌味を言う、発言権を与えない、交友関係を把握したがる、不機嫌になると物に当たる、見下した物言い)
- 経済的DV(生活費を渡さない、家計のいびつな管理、自分の収入を秘匿し使わせない、配偶者のお金に手をつける、配偶者が働くことの妨害・退職させる、配偶者に洋服などを買わせない)
- 性的DV(性行為の強要、中絶の強要、避妊の拒否、ポルノビデオやアダルトサイトの視聴の強要、子どもができないのをなじる、女性関係を認めさせる)
- 社会的DV(配偶者の人間関係や行動を制限、配偶者が実家や友人とつき合わないよう制限して独占する)
- 面前DV(子どもの前で配偶者への暴力行為を見せる、子どもの前で配偶者に暴言を吐く、子どもに暴力をふるう、子どもを配偶者から取り上げる、配偶者の悪口を子どもに吹き込んだり、言わせたりする、子どもに危害を与えると言って脅す)
これらの内容については、よく話題にされるようになり、ご存知かと思います。
内閣府男女共同参画局の直近の調査では、令和2年度後期のDV相談において、「精神的DV」の割合がもっとも高かったとされています。家庭内でのコミュニケーションや上下関係が歪んで、それが長引いていくと、配偶者は追い詰められた気もちになっていきます。
いつのまにか家族や友人と疎遠になっていた、「きみが間違っている」と言動を否定されたり、ばかにされ、「相手の言うことが正しい」と信じこむようになってしまった、夫婦間に歴然と上下関係があり、対等なパートナーとしての関係性でない、子どもやペットを利用して、服従させられるのに馴れてしまうといった報告がなされています。
相談・対策
DVなのかどうか、相談したいとなれば、相談機関や相談手法が複数ありますので、情報だけでも得ることが可能です。
DVに関する相談先
*DV相談ナビ #8008(はれれば)
*DV相談プラス 0120-279-889(つなぐ・はやく)→SNS・メール相談もあります
*お住いの自治体の配偶者暴力相談支援センター
*お住いの自治体の婦人相談所
夫の言動の粗暴化や、手が出たり足が出たりすることについては、夫とそのいら立ちについて話すことができれば、傾聴し、「アンガーマネジメント」について提案することで、収めていくことができ、家族関係の安定につながるかもしれません。「アンガーマネジメント」は企業の社内研修で取り上げたり、自治体広報に講座の紹介などがなされています。
当人に問いかけるに際しては、なんでそんなことを言うの?するの?と、他罰的な相手を責める言いようでなく、「このところいら立っているようだから、とても心配なんだけど」「子どももお父さんを心配しているんだけど」と、「Iメッセージ」(私主語)で伝えてみましょう。
実は・・・と夫の思いが聞かせてもらえるかもしれません。
アルコール依存傾向に注意
もうひとつ考えられるのは、飲酒量が増加し、アルコール依存傾向になっていることからの、言動の粗暴化や、身体の不調、配偶者/パートナーへの嫉妬妄想もあげられます。
コロナ下となり、在宅ワークが増え、職場の人間関係も疎遠になり、飲酒量の増加が懸念されています。コロナ下となった2020年には、Zoom飲み会というオンラインでの飲酒機会も増えました。在宅でテレビを見ているとアルコールのCMも多くあり、コンビニに行くと、缶酎ハイなどが手軽に買えます。アルコール度数9%のストロング酎ハイもあり、甘みがあって飲酒が過ぎてしまいがちです。
お酒に弱いほうではない、呑まれてはいないと思っていても、飲まないと落ち着かない、気分が晴れないとなってきて、お酒に頼り少量では、酔えなくなってきます。さらに離脱症状が出てきます。アルコールが切れるといらいらする、不安になる、手が震える、夜眠れない、汗をかく、食べたものを吐くなどです。また、一度お酒を飲み始めるとひたすら飲み続け、食事も摂らず、『飲んでは寝る』の連続飲酒をくり返すこともあり、コロナ下の在宅ワークがそれを可能にするとも言えます。
パートナーの行動をチェックする、言動が気になりあり得ない嫉妬をするのも症状であると言われています。妻の飲み会についてこようとする、何度も電話をかけてくるという行動をアルコール依存症の配偶者をもつ方から聞きます。
アルコール依存とみられる人は全国に100万人超、存在すると言われており、女性も男性もだれしもがかかり得るものです。
話し合いができる段階であれば、「お酒は止めて」という言い方でなく、「からだが心配だから、企業の産業医に相談してみたら」と促してみるのが得策と思われます。
*以下、アルコール依存症に関する情報が集約された「アルコール依存症ナビ」です。
アルコール依存のチェックや、アルコール依存に関する様々な情報を見ることができます。
依存症に陥りやすい3つの特徴
いらいらしたり思うようにならないと、暴力や飲酒に走るのは、孤立によるものと言えます。
依存症と言われるものには、アルコール依存、ギャンブル依存、薬物(鎮痛剤・咳止め等も含め)依存、摂食障害、関係性依存、買い物依存などありますが、いずれも孤立のやまいです。
孤立、否認、比較の3つが依存症に陥りやすい人の特徴と言われており、暴力や飲酒といった課題を察知したら、「孤立させない=あたなはひとりじゃない、なにか抱えているなら話してほしいと促す」、「否認しない=暴力ではない/たいした暴力ではない、アルコール依存ではないという「否認」を、否定せず、融かしていく関係性を構築していく」、「比較しない=人と比べて自分は、、という考え方を手放す、自分は自分です」 ことが肝要とされています。
配偶者本人が困り感がなく、課題に向き合ったり相談する気もちがなくとも、困り感を抱えるあなたが、相談機関等につながっていくことがまず第一歩です。カップルカウンセリング(夫婦等でのカウンセリング)に配偶者と行けるようであれば、改善や気づきの第一歩ともなり、夫婦関係の再構築につながります。
暴力に遭遇した場合、自分を責める必要はまったくありません。悪いのはあなたではありません。
この記事の著者
林螢子(はやし けいこ) 公認心理師
360度の感性。ひとが好き、言語化を標榜し、子どもからシニアまで仕事及び社会貢献活動において接しています。民間企業、行政(中央省庁、基礎自治体、法曹領域)、小・中・高校・大学・研究機関、行政委員・PTA会長・同窓会・県人会・学会・NPO等、他領域で活動しています。子育て・看護・介護経験もあり、あらゆる方の困り感に寄り添える自負があります。また、摂食障害をライフワークとしており、食のたいせつさ、アディクションについて伝え続けていきたいです。