①アサーションとは【ドラえもんで理解するアサーション】

アサーションとは

あなたはコミュニケーションが得意ですか?

仕事をしている時や、友達と話している時、家族と接している時など、うまく自分の気持ちや思いを伝えることができなくて、黙り込んでしまったり、気持ちを誤魔化してしまったり、必要以上に攻撃的な言い方をしてしまったりすることはありませんか?

そして、そのようなコミュニケーションを取ってしまった後に、落ち込んだり後悔したりすることはありませんか?

本連載のテーマである「アサーショントレーニング」では、自分の感情も相手の感情も大切にするコミュニケーションを学ぶことができます。

「アサーショントレーニング」をひと言で言えば、さわやかな自己表現になります。ギクシャクした人間関係を滑らかにする潤滑剤をイメージしてもらえるとよいと思います。

もし、あなたが今コミュニケーションに困難を抱えているのならば、本連載をぜひ参考にしていただければと思います。

攻撃的な「ジャイアン」、非主張的な「のび太くん」

国民的人気アニメ「ドラえもん」にジャイアンというキャラクターがいるのはご存じかと思いますが、

あなたの周りに「ジャイアン」はいますか?

「いるいる」と思った方、それはどんな人ですか?

暴力的な人でしょうか?

あるいは、人の話を聞かない人?自分が正しいと思っている人?人を自分の思い通りにするのは当然だと思っている人・・・?

アサーショントレーニングでは、このような「ジャイアン」の特徴を「アグレッシブ(攻撃的)」と呼びます。

ジャイアンタイプの人は、自分の感情には正直ですが、状況には不適切な自己表現をします。自己肯定感は強いかもしれませんが、それは他者の犠牲の上にたった自己肯定感なので、周りの人は近づくことを恐れたり、怒りや傷つきを感じたりすることもあるでしょうし、周囲の人からは敬遠されやすい傾向にあります。


 それでは、もう一つ質問です。

あなたの周りに「のび太くん」はいますか?

皆さんにとって、「のび太くん」はどんなイメージでしょうか。

自分の意見をはっきりと言わない人?

あるいは、消極的な人?常におどおどとして、不安そうな人?「どうせ自分なんて」と自己否定的な人・・・?

このような「のび太くん」の特徴のことを、アサーショントレーニングでは「ノンアサーティブ(非主張的)」と呼びます。

自分の感情に不正直で、抑制的(小さな声)である分、「傷ついた」という思いや、不安を抱きやすいです。人によっては、のび太くんがジャイアンやスネ夫くんに復讐するための道具をドラえもんにお願いするように、陰湿に復讐をしようと企む人もいるかもしれません。

このようなのび太くんタイプの方は、他者からは「控えめないい人」と思われる可能性もありますが、「どうでもいい人」と思われたり、本心がわからない分、時には不信感を抱かれたりすることもあるでしょう。そして自分自身を優位に保ちたい人が近づいてきたりする可能性もあります。


ジャイアンとのび太くん、こうして見ると正反対なタイプに見えますが、「対等な人間関係を築くことができていない」「お互いを尊重することができていない」という点で共通しています。

主張的な「しずかちゃん」

アサーションの3つめのタイプは「アサーティブ(主張的)」です。

自分のことも相手のことも大切にできている。そして、自分の意思で行動を選択することができているタイプです。

ドラえもんの中で、さわやかな自己表現ができているなと感じるのは「しずかちゃん」です。

しずかちゃんは、のび太くんや友達に遊びに誘われても、断るときは「ごめんなさい。今日はピアノのお稽古があるから遊べないの。明日ならいいわ」など、しっかりと理由を伝えた上で断り、代替案も出します。そして、「せっかくだけど」「遊びたいけど」など、誘ってくれた相手の気持ちを受け止める発言もしているのです。

しずかちゃんタイプの人は、自分自身の感情に正直であり、状況にも適切な行動をとることができます。そして、遠回しに「察してよ」という態度ではなく、率直に相手に意見を伝えます。それも、相手のことも尊重した表現、言い回しができるので、他者からは「大切にされた」「尊重された」という感覚を抱かれ、信頼関係を築くことができます

常に「しずかちゃん」でいる必要はない

ここまで、ジャイアン、のび太くん、しずかちゃんという3つのタイプを説明しました。3つのタイプを読むと、しずかちゃんにならないといけないのかなと思うかもしれませんが、時と場合によっては、のび太くんでいること、ジャイアンであることが必要になる場面もあります。

例えば、相手がジャイアンタイプの人間である場合、下手にこちらが自己主張すると、余計に攻撃を受ける可能性があります。そういう場合は、“意識的に”のび太くんになることが対処法としては有効であるかもしれません。

もしくは、しつこい訪問販売やキャッチセールスに遭ったとき。相手の意見を尊重すると、みるみる相手の話術にハマってしまう可能性があります。そういうときには“意識的に”ジャイアンのように自分の意見(例えば、「私には必要ありません!」など)を伝えることで、対処できることもあるでしょう。

自分のコミュニケーション方法に「のび太くん」と「ジャイアン」の二択しかないと、周囲の人たちと円滑な人間関係を抱くことは難しいと思います。その2つのコミュニケーションパターンのなかに「しずかちゃん」という選択肢を増やすこと。それがアサーショントレーニングの目標です。

アサーティブになる練習

それでは、どうすればしずかちゃんみたいに、さわやかな自己表現ができるようになれるのでしょうか。

その第一歩として、私がいつもクライエントさんにお伝えしているのは、

しずかちゃんタイプの人を探す」

ことです。

  • 見ていて気持ちの良い話し方をする人。
  • 相手を大切にしているのが伝わってくる人。
  • 自分のことを大事にしているんだなと感じる人。

このような人が、あなたの周りにいませんか?

身の回りのご家族や、職場の人たち、ママ友、テレビに出ている芸能人。

一度、「この人はどのタイプかな?」と観察してみてください。

今までこの宿題を出したクライエントさんたちのなかには、「芸能人のあの人はしずかちゃんだ」「あのアイドルグループはみんなしずかちゃんタイプですごい!」「あの司会者が人の話を最後まで聞かないのはジャイアンタイプなの?」など、私が気づかなかったことまでたくさん教えてくださる方もいます。

ぜひ、皆さんも周りにいる「しずかちゃん」な方を探してみてくださいませんか?

次回のコラムでは、具体的にどうすればさわやかな自己表現をすることができるようになるのかについてお話させていただきたいと思います。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。