②アサーショントレーニングの方法とコツ【ドラえもんで理解するアサーション】

前回の復習(アサーションとは)

前回のコラムでは、コミュニケーションのパターンを以下の3つに分けて考えました。

  • 自分の意見ばかりを主張する「ジャイアンタイプ」
  • 消極的で自己主張するのが苦手な「のび太くんタイプ」
  • 自分の意見も相手の意見も大事にする、さわやかな自己表現ができる「しずかちゃんタイプ」

「しずかちゃん」のコミュニケーション方法が一番理想的ではあるけれど、常に「しずかちゃん」である必要はなく、自分の意思で「のび太くん」と「ジャイアン」を選択することができるのが、アサーショントレーニングの目指すコミュニケーションです。

アサーションのことをよく知らない方は、先に下記の記事を読むことをおすすめします

アサーション
①アサーションとは【ドラえもんで理解するアサーション】

前回のお話の中で、自分の感情も相手の感情も大切するコミュニケーションであるアサーションを身につける第一歩として、「あなたの周りにいるしずかちゃんタイプの人を探しましょうという宿題を出しました。

しずかちゃんタイプの人とは、具体的に言うと次のような特徴を持つ人のことです。

・見ていて気持ちの良い話し方をする人
・相手を大切にしているのが伝わってくる人
・自分のことを大事にしているんだなと感じる人

あなたの身の回りにいる「しずかちゃん」を見つけることはできましたか?

今回は、「しずかちゃん」のコミュニケーションに近づくための方法をお伝えしたいと思います。

Iメッセージで、しずかちゃんタイプを目指す

アサーショントレーニングのコツはいくつかありますが、その中でも一番取り入れやすく、大事なのは「Iメッセージ(アイメッセージ)」です。

「Iメッセージ」は「私メッセージ」であり、「私は」というのを主語にしたメッセージのことです。

日本人は「私は」という主語を省いて話すことが多いので、これを意識するだけで話し方がかなり変わります。

例を挙げてみましょう。

「どうしよう!」→「私はどうしたら良いか迷っている」
「違う」→「私は違った意見を持っている」
「うるさい!」→「私はうるさいと感じている」
「あなたの意見は?」→「私はあなたの意見が聞きたい」
「早くしなさい!」→「私はあなたに急いで欲しい」

どうでしょうか?

「私は」を主語にすると、自分の気持ちや考えがはっきりしませんか?

私が初めて「Iメッセージ」を学んだとき、私はとてもせっかちな性格なので「早く!」と、ついつい言いがちなのですが、これは「私は相手に早く行動して欲しいんだな」「相手のスピードがどうのこうのではなく、私が遅いと感じているだけなんだな」ということに気づき、まさに目から鱗が出る思いでした。


では、もう少し複雑な気持ちについても、「私は」を主語にして言い換えてみましょう。

「あなたが睨むからやだ」→「私はあなたの目を見て睨まれたと思ったので、怖くなった。」
「あなたはグズだから腹が立つ」→「私には、あなたの動きが遅く感じられるので、もう少し急いで欲しい」

どうでしょうか?今、ある感情は相手に引き起こされたというよりは、自分の感じ方によって起きた感情であることがわかるでしょうか?

それがわかると、たとえネガティブな感情であったとしても、相手を責めるニュアンスではなく、客観的な情報として相手に伝えることができるようになります

まずは心のなかだけで良いので、「私は」を主語にしてみませんか?実践より前に練習しておくことが大事です。

しずかちゃんコミュニケーションに近づく4つのステップ

それではもうひとつ、「しずかちゃん」のコミュニケーションに近づくための方法をご紹介します。

しずかちゃんコミュニケーションに近づく4つのステップ

ステップ1:状況を受け止めて、自分は感情的にならないように気持ちを落ち着ける

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント。

イメージできるでしょうか?例を挙げてみます。

事例1:誘いを断る

とても忙しい日々がやっと落ち着き、久しぶりにゆっくりとした時間がもてそうです。あなたはとても疲れています。そこに友人から電話がかかってきて「暇だからどこかへ行こうよ」と、自動車を持っているあなたにせがんできます。さて、あなたはこのような場面では、どう対応しますか?

先ほどの3つのタイプだと、どうなるでしょうか。

のび太君タイプ

(とても嫌だけど断れないし…)うん…。わかったよ。

ジャイアンタイプ

もー!また!?あなたは暇でも私は暇じゃないんだよ!(乱暴に電話を切る)

しずかちゃんタイプ

どこかへね〜。う〜ん。(ステップ1)

今日は天気が良いから、あなたが出かけたい気持ちもわかるんだけど、今日は私、とっても疲れてるんだ。最近忙しかったから。(ステップ2)

悪いなぁとは思うんだけど、また別の日にしてくれる?」または「どうしても今日っていうことなら、他の人を誘ってくれる?(ステップ3)

本当にごめんね。また誘ってね。(ステップ4)

これはあくまでひとつのシミュレーションですが、しずかちゃんはとても丁寧に対応していることがわかるかと思います。ステップ1では一旦友人の提案を受け止めています。そしてステップ2では、相手の思いを受け止めた上で、自分の意見を伝えています。ステップ3のコツは、より具体的に提案することです。もしここで相手が「あなたと出かけたいの!」と言ってきた場合、ステップ4としてさらに交渉するのか、「じゃあ2時間だけね」など妥協案を提案するのかなど、対応が変わってきます。


では、また別の例で練習してみましょう。

事例2:セールスを断る

買い物に出かけた通りがかりの洋服店で、ちょっと気になる服を見つけて手に取って見ていると、店員さんがニコニコしながら「よくお似合いですよ。この商品は今とても人気なんですよ」と、強引にすすめてきます。欲しい気持ちもありますが、今、自分が支払えるギリギリの価格です。この場面ではどのように対応しますか?

のび太君タイプ

…あ、はい。じゃあ、これ…。

ジャイアンタイプ

しつこいなぁ!自分で見てるときに邪魔しないで!!

(乱暴に服を店員さんに押し付けて店を後にする)

しずかちゃんタイプ

値段が、ちょっと高いんですよね。(ステップ1)

人気があるとすすめてくれる気持ちもわかるし、私も欲しいのですが…(ステップ2)

残念だけど、今日は他の買い物もあるのでこれは買えません(ステップ3)

またの機会に寄らせてもらいます。どうもありがとう。(ステップ4)

実際、お店で店員さんに声をかけられたときに、ここまで丁寧な対応をすることは難しいかもしれません。ですが、4つのステップとしてシミュレーションしておくと、いざ断るという場面で、困らないでしょう。


もうひとつ例を挙げます。今度は断る側ではなく、お願いする側の練習です。

事例3:お願いごとをする

あなたはここのところ、とても落ち込んでいます。パートナーとの喧嘩や、子どもについ口うるさく言いすぎて自己嫌悪に陥ることが多いのです。辛い気持ちを聴いて欲しくて友達に電話をかけてみたのですが、夜遅いせいか友達の声はとても眠そうです。

こちらも、先ほどの3つのタイプをふまえて考えてみましょう。

のび太君タイプ

ごめんね。別に用事ってほどじゃないし、またかけるわ…。

(じめっとした感じで電話を切る)

ジャイアンタイプ

もぉっ!私と話をするのがそんなに嫌なの!?いつも私があなたの悩みを聞いてるのに、聞いてくれたっていいじゃない!

しずかちゃんタイプ

今、電話いいかな?(ステップ1)

眠そうで申し訳ないんだけど、私、今ものすごく落ち込んでて、ちょっと話を聴いてもらいたいんだけど(ステップ2)

もしよかったら、30分くらいでいいから話を聴いてもらえないかな?(ステップ3)

(相手がOKしてくれた場合)ありがとう、助かるよ(ステップ4)

(相手が断った場合)うん、じゃあ、またかけ直すね(ステップ4)

ここでのポイントは、自分から人に頼むとき、時間をもらうときは「30分くらい」というように、より具体的に提案をすることです。

言葉のプレゼント

あとは、4つのステップのステップ4のところに書いた「言葉のプレゼント」を意識できると良いです。これは、相手があなたになんらかのアプローチをしてくれたことに対する感謝の気持ちのことです。

遊びに誘ってくれたのを断るときにも、ただ「ごめんね」というよりも、「ごめんね。誘ってくれてありがとう」とか「ごめんね。また誘ってね」と一言つけるだけで、言われた相手はとても気持ちが良くなります。

4つのステップを全て言葉にしようとするのは難しいですが、具体的な提案言葉のプレゼント、このふたつを意識するだけでも、「しずかちゃん」のようなさわやかな自己表現に近づけるはずです。

なかなか実践するのは難しいかもしれませんが、まずはその日のコミュニケーションを振り返ってみて、「4つのステップで答えるとしたら、どう言えばよかったのかな?」と考えてみてください。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。