イライラとの付き合い方【育児に役立つ心理学】
こんにちは。臨床心理士/公認心理師の八木経弥です。
私も現在4歳と1歳10ヶ月の娘の育児中なのですが、育児をしているとどうしてもイライラするという場面が多かったり、自分のイライラに疲れ果ててしまったりすることが多いのではないかと思います。
そこで本稿ではイライラを落ち着かせる方法、「アンガーマネジメント」についてお話ししたいと思います。
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメントとは、イライラや怒りといった感情をコントロールすることです。
怒りの感情自体が決して悪いわけではありませんが、怒りに感情を支配されてしまうと衝動的な行動や言動をとってしまい、適切な対処行動を取ることができません。怒りが冷めた後に自己嫌悪に陥ってしまうこともあります。
そのような事態を避けるためにも、アンガーマネジメントを知っておくのは有効です。
大切なのは、「怒りの感情を抱くことがダメ」なのではないということです。後述しますが、怒りの感情はそれ自体に意味のあるものも多くあります。
アンガーマネジメントで目指すのは「怒った後に後悔しないこと」です。
では、そもそも、育児をしているとなぜイライラするのでしょうか。
「仕事だとイライラしないのに、自分の子どもが相手だとついイライラしてしまう」
「元々はこんなに怒りっぽくなかったのに、子どもが生まれてから、すごく怒りっぽくなった」
そんな方も多いのではないでしょうか。
イライラは身近な相手に対し、自分の思った通りにならないときに起こりやすい感情です。多くの親にとって子どもは最も身近な存在であり、自分の思い通りには行動してくれない存在でもあります。イライラする要素が満載ですよね。
イライラの前にある感情に気づく
イライラ、怒りというのは「二次感情」であると言われます。「二次」ということは「一次」があるわけで、イライラが出てくる前に別の感情があることが通常です。一次感情としては、「不安」「心配」「怖い」「悲しい」「罪悪感」などのマイナスな感情が隠れていることが多くあります。
イライラはとても強く、感じ取りやすい感情なので、その裏にある感情に気づくことは簡単ではありません。
例えば、子どもが夕飯を食べてくれない場面。
ご飯、しっかり食べてね
もう食べられない
お野菜全然食べてないじゃない。栄養取れないよ?
お腹すいてないもん
お母さん、頑張って作ったんだよ
これ、好きな味じゃない
だったら、もうご飯作らないからね!
せっかく作ったご飯を食べてもらえないとイライラしますよね。しかし、「イライラは二次感情」という知識があれば、「じゃあ、私はイライラの裏にどんな感情を持っているんだろう?」と振り返ることができます。
この場面では、どのような一次感情から、イライラが出てきたのでしょうか。
「頑張ってご飯を作ったのに食べてもらえなくて悲しい」
「野菜を全然食べないので、しっかり栄養が取れていないのではないかと心配」
このように、「悲しい」「心配」といった感情がイライラの前にあった可能性があります。
その感情に気づけたら「私は、あなたのことが心配なの」「私は、あなたがこういうことをして悲しいんだよ」など、イライラをぶつけるのではなく、冷静に話ができるかもしれません。
イライラの前にある想い、価値観
例えば、朝、幼稚園に行く準備がなかなかできない子どもにイライラした場面です。
ご飯食べ終わったら、着替えて歯磨きしてね
・・・(着替える前におもちゃで遊び始める)
もう幼稚園に遅刻しちゃうよ
はーい(遊ぶのをやめない)
もうすぐ出発する時間になるよ
わかったー(遊んでいる)
何回言ったらわかるの!!!
イライラの前にどのような気持ちがあったか、少し振り返ってみましょう。
「幼稚園に行くためには、8時までに準備を終えて欲しい」
「なんで、自分で時間通りに準備ができないの?」
「遊ばずに、やることを先にやってほしい」
これらの気持ちには、「幼稚園に遅刻するべきではない」「8時には準備を終えて家を出るべきである」という母親の信念が含まれています。これは、今後社会で生活をしていくなかで「時間を守れる子になってほしい」という思いの表れです。
しかし、その思いを通り越して、自分自身の価値観と相手の行動が異なるために生じたイライラが出てきているのです。
多くの人は無意識のうちに「〜するべき」「こうあるべき」という、自分自身にとっての「常識」に影響されており、上記のような「決められた時間を守るべき」という価値観を有しているために、相手がそれとは異なる行動をするとイライラするのです。
このように、イライラには自分の価値観が反映されます。
危険認知のためのイライラ
さらに、イライラには見落とされがちな大事な機能があります。それは危険を教えてくれるということです。
子どもが食事中に箸で遊んだり、歯ブラシを口に咥えたまま走り出したりするとイライラしませんか?あるいは、遊んでいて道路に飛び出しそうになるときや、自転車で前を見ていないときにも。これらは、事故に遭うリスクを察知しているため、イライラの感情を抱くのです。
つまり、イライラは生きていくために必要で重要な感情でもあるわけです。このサインがあるからこそ、母親は自分自身や子どもを守ることができるのです。
ですが、普段生活していると、細かいイライラがたくさん転がっているのではないでしょうか。これは、本当に必要なイライラの場合もあれば、見守っても良い・見逃しても良いイライラである可能性もあります。
人によって何を危険と感じるかは異なりますが、自分が何に対して反応しやすいのか、イライラしやすいのかを知っておくことも、イライラをコントロールするための方法のひとつです。
親が子どもに降りかかる全ての危険を取り除くことは到底不可能です。仮に全ての危険を取り除くことができたとしても、全く危険のない環境で育った子どもは、何が危険で何が安全かを学ぶ機会がありません。
そう思うと、母親が何を危険と感じているのか、どういうふうに危険なのかを子どもに話し、見守っても良いものに関しては、あえて見守って体験させることで、子ども自身の危険感知のレベルを上げることも必要と思います。
上手な怒り方
アンガーマネジメントは「怒らない」ことが目標ではありません。「後悔しない怒り方をする」ことが目標です。
そのためにはいくつかのポイントがあります。
・感情的に怒らない。(物を壊したりしない)
・相手の人格を否定する言葉を使わない。
・曖昧な言葉を使わない。(「ちゃんとしなさい」「普通は〜でしょ」など)
・大切なことは、相手の目を見て伝える。
イライラとすると、つい衝動的に怒ってしまうこともあるかもしれません。では、上手な怒り方をするには、どのようにすれば良いのでしょうか。
イラッとしたら6秒待つ
怒りのピークは6秒と言われています。イラッとしたら、まずは冷静になるために6秒待ってみましょう。ゆっくり6秒、頭の中で数えても良いですし、ゆっくり深呼吸するのも良い方法です。
怒りの温度、数値を伝える
数の理解ができてきたお子さんには、数値で怒りを伝えるのも方法です。0が冷静な状態で100が怒りMAXとしたとき、今はどれぐらいの数値なのかを伝えます。
これはお子さんが母親の怒りを理解しやすくなるのと同時に、自分自身を客観的に見る必要があるので、図らずしも少し冷静になる手助けをしてくれることになります。
イライラする場面から一時的に離れる
タイムアウトと呼ばれる方法です。その場に留まることでイライラが募るようであれば、一時的にその場から離れるのもひとつの方法です。
その際には、「お母さん、ちょっとイライラしてるから落ち着くために向こうの部屋に行ってるね」「イライラにバイバイするために、外の空気を吸ってくるね」など、お子さんに声をかけられる方が、お子さんも安心します。お子さんがお母さんと離れるのを嫌がったときには、一緒に別の部屋に行っても良いでしょう。
まとめ
子育てにイライラはつきものです。イライラしている自分を責めないでください。あなたはまだイライラとの付き合い方、上手な怒り方を見つけることができていないだけです。
私自身、毎日イライラしない日はないというほどイライラしながら過ごしています。しかし、アンガーマネジメントを復習して、イライラしたら6秒待つ、怒りの数値を伝えるという方法を試せた日には、普段よりイライラが減っています。
忙しい毎日を送っているとこういった方法を忘れてしまう時もあるかもしれませんが、まずは思い出した時だけでも試してみてください。繰り返して実践していると、徐々にアンガーマネジメントが癖づいてきます。「ニコニコハッピーな育児を!」とまでは言いませんが、イライラを後悔しない育児をしていきたいものですね。