子どもがリストカットしてしまった時の対応

こんにちは。東京女子体育大学・東京女子体育短期大学で教員をしている臨床心理士・公認心理師の青山有希です。

本稿では、リストカットへの理解と基本的な対応方法について、お伝えしたいと思います。

既にご存じかもしれませんが、リストカットは小学校と比べ、中学校では非常に多くなります。著者は以前、教育相談員やスクールカウンセラーを務めている時に、リストカットをしているご本人や保護者の方、学校の担任等の支援を数多くしてきました。しかし、自分のお子様や生徒さん、あるいは恋人や友達がリストカットをしているのを目撃したり、リストカットしたことを打ち明けられたりした時に、どのような対応をしたらよいかご存じの方は少ないかと思います。

そこで、本稿ではあなたの身近にいる方がリストカットをしてしまった時にどのような対応をしたらよいか、その基本をお伝えできればと思います。ご興味があれば、ぜひご一読いただければと思います。

リストカットは人ごとではない

あなたにとってリストカットは身近なものですか?それとも縁遠いものですか?

著者は「社会的養護」という授業を大学で担当しており、虐待・非行・不登校・障害など様々な課題を抱える子どもと家庭への支援について教えていますが、このような質問をよく学生にします。

すると、だいたい半々に手が上がります。その後、リストカットの概要や対応の基本をレクチャーし、授業の最後にリアクションペーパーに書いてもらうと、様々な意見が出てきます。

実は自分も高校生の頃に、辛いことがあってリストカットをしたことがある。

高校の頃の友人でリストカットをしている子がいた。その子への対応が今日の授業で学んだことと違うことをしてしまっていた。

リストカットしている友達がクラスにいたけど、自分は見て見ぬふりをしていた。

自分はリストカットを自分とは関係のないものと思っていたけれど、実はそんなことないんだなと気づいた。自分が気づいていないだけで、実はリストカットをしている子はたくさんいたんだなと思う。

著者の勤務している大学は保育者養成校でもあるので施設実習がありますが、児童養護施設等に実習に行く学生にとっては、施設の子どもがリストカットをしているということは少なくありません。

授業では「リストカットを他人事ではなく、自分事のように感じられるようになろう」というねらいを定めていますが、このような施設の状況や中高校時代の自分や周囲の友達のことを思い出し、積極的に理解を深めてくれています。

読者の皆さまにも、リストカットを身近なものとして感じていただきたいと思い、このコラムを執筆しています。

なぜリストカットをするのか

多くの方は「なぜリストカットするのか?」という疑問を持たれると思います。

要因は複雑ですが、簡単にいうと、何かしらの「学習」があると私は理解しています。例えば、自分が虐待された暴力モデルからの学習、友人がやっていた、インターネットを見たという「学習」などもそうです。

スクールカウンセラーをしている時に、不登校の子どもや勉強がわからないと訴える子、人間関係にしんどさを感じている子が「イライラする」「自分で自分のことが嫌になる」などと語ることがあります。そのような時、「そのどうしようもない気持ちをどうやって対処しているの?」と聞いたり、「なんか自分の体のどこかを痛めたり、傷つけたりしたい感じとかある?」と聞くと、実は手のひらを切ったり、手の甲を切ったり、太ももを切ったりすることがあると語ってくれることが少なくありません。場所は、自分の家であったり、学校のトイレであったり、教室であったりと様々です。

リストカットをしている子ども達は「どうしようもなくイライラして、切ったら、すっきりした」「その瞬間だけは、すっきりする」「自分の血をみると、生きてるんだなと実感する」など様々な率直な感想を述べてくれます。

リストカットの現場を目撃したときの対応

私自身はリストカットの現場を目撃したことはありませんが、読者の皆さんはリストカットの現場を目撃することがあるかもしれません。そのような時は下記のように対応するとよいでしょう。

①状況を確認する

まずはしっかりと状況を確認しましょう。

例えばカッターを持っている時は、リストカットしようとしているのかもしれないし、何か作業しようとしているのかもしれませんので、決めつけないことが大事ですね。

②やさしく声をかける

もし、リストカットするつもりであることが分かったら、「しんどい感じなんだね?少しお話聞かせてもらえないかな?」と声をかけるとよいでしょう。

その時に大事なことは、頭ごなしに叱責しないことです。叱責されたら相手は、話すことをやめ、二度と話すことはないでしょう。

③切っていたら…深呼吸してから話す・手当する

もし実際に切っている場面に遭遇したら、慌てないで、まずこちらが深呼吸することです。

そして相手が、そうせざるを得ないほどつらいことがあったことに思いを馳せて、「しんどい感じなんだね?少しお話きかせてもらえないかな?」「手当しよう」と声をかけるといいでしょう。学校の生徒さんであれば養護教諭につなげるといいでしょう。

④ぐったりしていたら…救急車を呼ぶ

もしリストカットした形跡があり、ぐったりしている感じや何か危ないなという感じがすれば、迷わず救急車を呼びましょう。医療につなげることは非常に重要です。

リストカットを打ち明けてくれた時の対応

本人からリストカットを打ち明けてくれた時の対応について、主に学校での対応(教職員の対応)を基に説明します。

正直に伝えてくれたことに、謝意を示す

「死にたいくらい辛い状況」であることを理解し、正直に伝えてくれたことに「ありがとうね。大事なこと、教えてくれて」等伝えます。

STEP
1

具体的に確認する

いつぐらいからどんな状況でどんな感情にかられて、何を用いて、どこの場所にリストカット等しているかを、本人が言える範囲で確認します。またこのことを今まで誰に伝えているのか等も確認します。誰かに伝えられているかを確認することで、その子のサポート環境も確認できます。

STEP
2

手当ての有無を確認する

カッターや彫刻刀、はさみ等、家や学校にある身近なものを用いていることが少なくなく、雑菌等も心配であるため、手当てを自らしているか否か、手当てを誰かにしてもらっているか否かを確認します。学校にいる時に、手当をしていないことが確認できた場合は、保健室に連れていきます。

STEP
3

知識として知っておいてほしいことを伝える

子ども達はリストカットでは死なないと思っていることが少なくありません。しかし、死ぬつもりはなかったもののいつもと違うカッターを用いたり、いつもと違う場所を切ったりして大量出血してしまうことも実際生じていることを「知識として知っておいてね」と伝えます。また結果的に死に至るケースもあることも伝えています。

STEP
4

保護者へ連絡する

家庭によっては、保護者がすでにリストカットの事実を把握されている家庭もありますし、そうではない家庭もあります。子ども達は、保護者には言わないでほしいと訴えることも少なくありませんが、養護教諭や担任等と連携し、「あなたのことが大事だから、保護者の方にも伝えなければいけないこともある。ただ、伝える際に、どんなことが不安か等は率直に教えてほしい。こんな風に伝えるのはやめてほしい等あれば教えてほしい。伝え方を一緒に考えよう」などと伝えます。

STEP
5

恋人や友人からリストカットを打ち明けられた時

恋人や友人からリストカットを打ち明けられることもあるでしょう。その時は下記を参考にしてください。

恋人の場合

先に述べたことと重複しますが、頭ごなしに叱責せず、「大事なこと教えてくれてありがとう。一緒にどこかへ相談しよう」と伝え、所属している学校・職場のカウンセラー等、保健所・精神保健センター等に恋人ご自身から電話してもらって、一緒に相談に同行してあげると心強いと思います。

友人の場合

友人が学生さんなら、所属している学校のカウンセラーや養護教諭に相談しましょう。

ご本人は嫌がるかもしれませんが、その場合は「誰だったら相談できる?」とご本人が相談しやすい人を聞き出してあげたり、万が一どうしても相談に行くのは嫌だと言われた場合は、「私自身が友達にどう対応していいかわからないから相談したい」と自分が困っているということを伝え、所属している学校のカウンセラーや養護教諭に相談するといいでしょう。

友人が社会人の場合は、保健所・精神保健センター等に、ご自身が電話相談等してどう対応したらいいか相談されるとよいでしょう。

先生方に注意してほしいこと

ポジティブに伝える

時々、熱心な教員が「先生と約束して。もう二度とリストカットなんてしないと」と伝えたり、「自分の体を大事にしなさい」などと伝えることがあります。しかし、このように伝えると、子どもは「約束を破ってしまったから先生には言えない」とその教員に打ち明けることを控えるようになったり、「自分の体を大事にできなかった」と自分自身に対してネガティブな評価をしてしまうことがあります。子どもが正直に伝えてくれたことに「ありがとう。よく話してくれたね」とポジティブに伝えましょう。

「死にたいくらい辛い状況」であることを理解する

リストカットを自分の身近な大人に伝えるということは、リストカットしていることに本人が葛藤を抱いており、子どもが相談希求力を発揮しているとも理解できます。度重なるリストカットに対して「あれは単なるアピールなんじゃないか」とやや批判的な視点で捉える方もいますが、アピールなのかアピールではないかに着目するよりも、その子が「死にたいくらい辛い状況」であることを我々大人が理解をすることが、大事なのではないかと思います。


リストカットの対応は算数や数学のように「正解」が見えにくいかもしれませんが、本稿が皆さまの参考になれば幸いです。

なお、子ども達への対応の参考になるサイトとして、以下のものがあります。こちらも合わせてご覧いただければと思います。

こころもメンテしよう~ご家族・教職員の皆さんへ~(厚生労働省)

著者プロフィール

青山有希

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士

3児の働く元気なママ。「きらりと光るカウンセラー&大学教員&ママであるべし」がモットー。