④職業・仕事を特定する(後編)「わたしの幸せをつくる転職活動」

皆さん、こんにちは。公認心理師/臨床心理士/キャリアコンサルタントの山本智代です。「わたしの幸せをつくる転職活動」をテーマに、効果的な転職活動の進め方について連載しています。

本連載では、キャリア・プランニング・プロセスという方法に則り転職活動を行うことを勧めており、前回はキャリア・プランニング・プロセスのステップ3「職業・仕事の特定」の前編として、 自分の興味・能力・価値観など自身の強みを生かした職業リストの作成を行ってきました。

キャリア・プランニング・プロセス

  1. 意思決定の必要性の自覚・・・転職の必要性を判断
  2. 自己の再評価・・・職業経験の振り返り、興味・能力・価値観の見直し
  3. 職業・仕事の特定・・・職業・仕事の絞り込み(前回)
  4. 選択肢に関する情報収集・・・絞り込んだ職業・仕事の情報を様々な手法で集める
  5. 仮決定・・・ステップ3で絞り込んだ職業・仕事から1つの選択肢を選ぶ
  6. 教育・訓練・・・必要があれば、資格取得やスキル向上の教育・訓練を受ける
  7. 転職・異動・・・ステップ5で選択した職業・仕事への応募、応募書類の作成、面接

今回はステップ3「職業・仕事の特定」の後編として、 前回ピックアップした職業リストを更にブラッシュアップしていきます。

前回までの記事を読んでいない方はぜひこの機会にご一読いただければと思います。

仕事/就職・転職
①【転職のタイミング】今の仕事に疑問を感じたとき、あなたならどうする 「わたしの幸せをつくる転職活動」
仕事/就職・転職
②【自己の再評価】転職を決めたら、まずやること「わたしの幸せをつくる転職活動」
仕事/就職・転職
③職業・仕事を特定する(前編)「わたしの幸せをつくる転職活動」

「やりたい仕事」×「現実の検討」

前回の記事では、転職を決心した時になんとなく職種や業種を決めてしまうのではなく、まずは自分の興味・能力・価値観など自身の強みを生かせるような職業をピックアップしてみましょうとお伝えしてきました。それが下記の「自分の強みを生かした職業リスト」です。

自分の強みを生かした職業リスト

自分の興味・能力・価値観など、自分の強みを基にした職業リスト 。

周囲の状況を考慮した職業リスト

現在の自分の能力との一致度や市場動向、自分を取り巻く環境を考慮した職業リスト。

前回、例に挙げた医療事務の勤務経験があるDさんの「自分の強みを生かした職業リスト」は下記のようになりました。

Dさん

私の興味や経験、能力、価値観を活かした職業リストです

Dさんの強みを生かした職業リスト

今回は、この職業リストにピックアップした職種×業種1つ1つについて、能力的に可能かどうか、市場動向はどうか、経済状況や健康状態、家庭の状況は問題ないかなどをチェックします。これらの条件をクリアした職種・業種のリストが「周囲の状況を考慮した職業リスト」です。

Dさん

自分がやりたいってだけじゃなく、自分にできるかとか、市場の状況とか家のことも考えなくちゃいけないってことね

山本先生

はい。自分がやりたいことと妥当性のバランスも大事にできたらいいですね

それではチェック項目を1つずつ見ていきましょう。

①自分にできるかをチェックする

まずは職業リストに挙げた「職種×業種」の項目1つ1つについて、「現在の自分の能力との一致度」をチェックします。

Dさんの強みを生かした職業リスト(再掲)

ここでは自分にとって必要条件を満たせそうか、または現在の自分は必要な能力をもっているか、もしくは現在持っていなくてもこれから身に付ける方策や意思があるかを検討します。

現在の自分に不足しているスキルや知識があれば、これから身に付ける方法を考えます。そして、その方法を現実検討していくとよいでしょう。


例えば、職種で事務職を挙げた場合、事務職で求められる力は何かをみていく必要があります。事務職を職業選択する際に、理由として「パソコンが使えるから」、「時短勤務がしやすそうだから」などを挙げられる場合があります。しかし、これだけだと職業適性の検証が不十分な場合があります。

なぜなら、一般的な事務はOA機器の扱い以外にも求められる力が多様だからです。例えば、期限内に優先順位をつけながら正確に処理をしていく力、変更等に柔軟に対応できる臨機応変さ、周囲との連携力、成果が積み上げ型(多少のミスがあっても結果に成果が置かれるタイプ)ではなく、マイナス査定型(ミスなく書類作成や数値処理等できることが前提にあるため、ミスが業務成果上のマイナス査定になりやすい)等の特徴があります。

同時処理よりなるべく一つのことに集中できる環境がよい方、チームより単独作業を好む方、臨機応変さよりマニュアルがきちんとあった方が作業しやすい方にとっては、事務でも分業体制が整っている職場や一般的な事務以外の仕事の方がお力を発揮しやすいかもしれません。


先ほどのDさんの場合、まずはリストの1番目にピックアップした「医療ソーシャルワーカー」にはどのような力が求められるかを調べていきます。

職種×業種選定理由
医療ソーシャルワーカー × 医療・福祉 新たに社会福祉の知識をつけて、より包括的に医療に貢献したい

Dさんが医療ソーシャルワーカーについて調べてみると、「社会福祉士」か「精神保健福祉士」の資格取得が一般的であることがわかりました。資格取得には、学校で専門単位を取得後、国家資格に合格する必要があります。そして、就職後も技術や知識を高めていく努力が求められます。

Dさん

ソーシャルワーカーになるためには、まず資格が必要なんだ…

山本先生

学校に通うとなると、受験や在学中の期間やその間の収入なども考慮する必要があります

まずは、受験から卒業までの期間をどのように確保できるか、その間の収入をどうするか、得られるサポートがあるかどうか、受験難易度等を調べ、現実も踏まえて自分がどうしたいか、自分の意思を確かめていく必要がありそうです。学費免除の制度や教育訓練給付金などの制度も活用できないか調べてみるのもよいでしょう。

②市場動向をチェックする

次に、ピックアップした業種の市場動向を分析します。

ここでは、市場価値が低いからその市場を避けるという意味に限りません。市場価値は変動しやすく予測がつきにくいのも事実ですし、変化の激しい昨今では定期的な情報のアップデートが必要です。今価値が上がっている業種でも、今後それが継続するとは限りませんし、その逆もあります。

例えば、現在の世界市場のキーワードの一つとして挙げられるのが「脱炭素」です。日本でも2050年までに脱炭素社会を目指すとしています。企業においては、取引先や融資先が「脱炭素に向けてどれだけ施策実行や投資をしているか」が事業推進にも影響を与え、現在の企業価値の一つとなっています。扱う商品も自動車業界はEV車、食品業界は代替肉・植物肉市場の拡大など、より環境負荷の少ないものへとシフトしています。目下の就職においては、「脱炭素に向けてどれだけ前向きかどうか」が見極めの一つとも言えるでしょう。

職種ごとの有効求人倍率(1人につき、何件の求人があるかを示したもの)などを参考にするのも一つですが、ニュースや経済誌等に目を配りながら、市場がどのような流れになっているかをみていきましょう。そして、あくまでも「自分のリソース」と「市場動向」をわけて考え、両方の現状を知ったうえで、「自分がどう選択したいか」を検討していきましょう。


Dさんがリストの1番目に挙げた「医療ソーシャルワーカー」を調べてみると、社会が大きく変化する中で、治療との両立や社会復帰等を支援する同仕事は、ますます重要になってきていることがわかりました。有効求人倍率も比較的高く、ニーズが高い傾向にありそうです。一方、職業リストの2番目に挙げた「医療事務」については、現場のIT化・ペーパーレス化は今後も一層進んでいくとされており、求められる技術変化に適応していく能力や姿勢も求められそうだということがわかりました。

Dさん

医療ソーシャルワーカーはこれからもニーズがありそう!医療事務は今後はIT化が進みそうね

山本先生

このように、市場の動向をチェックすることは大事ですね

③自分を取り巻く環境(経済状況・健康状態・家族)をチェックする

最後に検討するのは、現在の自分を取り巻く環境です。

主に以下の3点を整理するとよいでしょう。

経済状況

現在の貯蓄額、住居費や食費、光熱費、教育費などの支出、配偶者の収入など

健康状態

治療や通院が必要であったり、体調や持病などで勤務時に配慮してほしい点など

家族やパートナーとの関係

子育てや介護の有無、期待できる家族のサポートの程度

山本先生

お子さんがいらっしゃる場合は、時系列でお子さんの成長年齢に沿った自身のキャリアプランを立ててみるのもよいでしょう

これらを整理することによって、現在選択している職業・仕事に制限がかかる場合もありますし、これから協力先を探す必要が出てくるかもしれません。ただ、この先、現在の制限がなくなることもありますし、今制限がなくてもこれから出てくる可能性もあります。現在できる工夫や改善点はないか、周囲に協力をお願いできる部分がないかも検討してみるとよいでしょう。そして、できる範囲で今後の見通しを立ててみましょう。

下記の表は、Dさんが自分自身の経済状況・健康状態・家族やパートナーとの関係を整理したものです。こちらを参考に皆さんもご自身の状況を整理してみてください。

周囲の状況を考慮した職業リスト(Dさんの例)

上述した「自分の能力との一致度」「市場動向」「自分を取り巻く環境」をチェックした上で、職業リストをブラッシュアップしましょう。

Dさんの職業リストは、「自分の能力との一致度」「市場動向」「自分を取り巻く環境」をチェックした結果、以下のように変わりました。

Dさん

いろいろ検討した結果、リストが変わりました

山本先生

Dさんにとって、子育てとどう折り合いをつけるかが大事なことなんですね。

最後に「職業・仕事」を2つ以上特定します。また、検討対象から外す職業・仕事については、判断に必要な情報を十分得ているかどうか確認しましょう。

ライフ・キャリア・レインボー

ここで、キャリアを虹に例える概念「ライフ・キャリア・レインボー」についてご紹介したいと思います。キャリア理論で著名なドナルド・E・スーパーは、キャリアを「人生のある年齢や場面の様々な役割の組み合わせである」と定義しています。

そして、この概念を「レインボー(虹)」に例えて説明したものが「ライフ・キャリア・レインボー」です。虹が7つの光の帯に見えるように、人生においても、例えば、職業人、学生、市民、家庭や地域社会など…人は様々な役割を同時に組み合わせながら生活を送っています。

「虹の幅」を自分の「役割の比重」とした場合、興味や価値観、注ぎたい時間やエネルギー量によって、その虹の幅は大きくなったり小さくなったり、それぞれが重なり合ったり、相互に影響し合ったりします。また、時期や経験、人との出会いによって虹の幅はいかようにも変化し、組み合わせることができて、生涯にわたって変化し続けます。

例えば、ステップ2で登場した医療事務の勤務経験があるDさんは、主に家族、職業人、という役割のなかで人生の虹を描いています。そこで、Dさんは、職業リストの1番目に、販売×小売業を挙げました。Dさんは現在、転職活動で自分を振り返ることを通して、現在は、職業人の役割より子育ての役割にエネルギーを多く注ぎたいという思いが明確になりました。

そこで、夜間勤務があり繁忙期には残業も多い傾向のある医療事務より、子育てが落ち着くまでは自身の強み(能力)を医療の近接領域(興味)で発揮し、子どもとゆとりをもって過ごす時間を充実したい(価値観)と考えました。自身の能力が発揮しやすい環境で、かつ時間の区切りがもちやすい場所では、Dさん自身の心にゆとりが生まれやすく、子どもにもゆとりをもってかかわれるのではないかと考えたからです。

また、職業リストの2番目に、引き続き医療事務として働く選択肢も残しました。子育ての協力先を確保することを念頭に、引き続き慣れた医療現場で、Dさんの力が発揮しやすい職場環境を選定していくことも有効であると考えたからです。

一方、以前から関心のあった医療ソーシャルワーカーについては、子育てをしながら通学、資格取得に費やすことは物理的・経済的にも限界があるため、一旦保留として中長期的なプランに置きました。

このように、現在の役割に不満足感などがある場合は、自分に新たな虹(役割)を付け加えたり、あるいは減らしたり、エネルギーの注ぎ方や時間の使い方、役割の内容を変える必要があるかもしれません。自分にとって輝く虹を描くために、現在の役割をどう捉え直していくかも大事な作業になるでしょう。

まとめ

このように、興味や能力、価値観に沿って作成した職業リストに、自分の能力との一致度・市場動向・自分を取り巻く環境をチェック・ブラッシュアップすることで、職業・仕事の特定を行います。

「自分がもっている要素」と「その他の要素」をわけ、自身の求めの部分と外部からの求めの部分を現実的に認識し、そのうえで自身がどのように選択したいかを問うことは、例え最終的な判断に至らなかった職業・仕事があったとしても、しっかり吟味するプロセスそのものに意味があると考えられます。また、物理的な制限や環境面で今すぐ実現が難しいことがあったとしても、一旦保留にして今後タイミングをみていくことも一つでしょう。

職業の選択肢が多いことは、それだけ自分を活かし、使っていける要素が多くある証でもあります。

一方、現在は選択肢が少なくても、今からでも、様々な経験や出会い、学びの機会を創り出し、存分に増やしてくことができます。職業リストは、ライフ・キャリア・レインボーが生涯変化していくように、人生の時々で順位が入れ替わり、新たに加わり、多様に変化していくことでしょう。自身の多様な変化を楽しみ続けたいものです。        

著者プロフィール

山本 智代(やまもと ちよ)

公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタント
ココロト オンラインカウンセラー

教育系大学を卒業後、人材総合コンサルタント企業での人材育成・派遣事業、教育関連企業での進路セミナーの企画営業に携わった後、官公庁、ハローワークの採用・キャリア支援の勤務を経て心理系大学院へ進学。卒業後は、心理とキャリアに関する専門家として、行政機関での乳児・幼児・児童の発達・教育相談、ハローワークでのキャリア・心理カウンセリング、スクールカウンセラー等に従事。さらに、女性のキャリア、仕事と子育ての両立などをテーマにしたキャリアカウンセリングやセミナーに携わっている。