育児中のアサーション【育児に役立つ心理学】

こんにちは。臨床心理士/公認心理師の八木経弥です。

アサーショントレーニング」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?あまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは自分の気持ちも相手の気持ちも大切にするコミュニケーションをとる練習のことです。

自分の気持ちも、相手の気持ちも大切にすることをアサーティブなコミュニケーションといいます。

育児中は、子どもや家族を優先するがあまり、ついつい自分の気持ちを抑え込んでしまったり。反対に、自分の気持ちをどんどん相手に押し付けてしまって、相手の気持ちを汲むことが難しくなったりすることがあるのではないでしょうか。

「とてもじゃないけれど、アサーティブなコミュニケーションなんか取れないよ!」という方も多いように思います。そんな育児中のしんどくなりがちなコミュニケーションが、少しでも円滑で心地よいものになるお手伝いができれば良いな、と思っています。

3種類のコミュニケーションタイプ

アサーショントレーニングでは、コミュニケーションの取り方のタイプを3つに分けます。

ひとつ目は、自分の気持ちを抑え込んで自己表現することが苦手な非主張的(ノンアサーティブ)なタイプ。私はこのタイプを「のび太くんタイプ」と呼びます。

ふたつ目は、相手の気持ちよりも自分の気持ちを大切にして、自分の思いや要求を主張する攻撃的(アグレッシブ)なタイプ。私はこのタイプを「ジャイアンタイプ」と呼びます。

そしてみっつ目は、自分の気持ちも相手の気持ちも大切にして、お互いを尊重する関わり方をしようとする主張的(アサーティブ)なタイプ。私はこのタイプを「しずかちゃんタイプ」と呼びます。

ただ、覚えていただきたいことは、しずかちゃんタイプが絶対的に良い!というわけではないということです。

場面によって、相手によってはのび太くんになったり、ジャイアンになったりすることも必要なこともあります。

ただ、「のび太くんかジャイアンか」という二択しかないと、とても息苦しいコミュニケーションになってしまいますので、「しずかちゃん」というコミュニケーションの方法を選択肢として持っていると、円滑なコミュニケーションを取ることができる可能性が広がります。

Iメッセージ

では、しずかちゃんに近づくためにはどうしたら良いのでしょうか。

その一番のコツは「Iメッセージ」です。

Iメッセージというのは、「私は」という言葉を主語にしたメッセージのことです。

例えば、「私は早くご飯が食べたい」「私は眠くて動きたくない」など。

「え?そんなこと?」と思いますか?しかし、このIメッセージは意外と侮れません。

例えば、私もとても言いがちな「早くしてよ!」という言葉。

これをIメッセージに言い換えると「私はあなたに急いでもらいたいの」という言い回しになります。

どうですか?印象が変わりませんか?

同様に他の色々な言葉もIメッセージにしてみると以下のようになります。

「うるさいなぁ」→「その声(音)は私にはうるさく感じる」

「邪魔」→「あなたがそこに居ると、私は通りにくい」

「どうしよう」→「私はどうしたら良いか迷っている」

「何してんの!」→「私はあなたが危ないことをしていないかが心配」

         「私はあなたにそれをしてもらいたくない」

「何考えてんの?」→「私はあなたの考えが知りたい」

このように声をかけられると、責められる感じが少なくなったり、「ちょっと話してみようかな」と思えたりしませんか?

アサーショントレーニングの4つのステップ

次にお伝えするのは、少しレベルアップした方法です。

アサーショントレーニングの4つのステップ

ステップ1:状況を受け止めて、感情的にならないように気持ちを落ち着かせる。

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し、思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する。

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える。

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント

これだけだとわかりづらいと思うので、具体例をあげてみます。

事例1:子どもがYouTubeを見るのをやめない時の声がけ

ステップ1:YouTube見てるの?

ステップ2:あなたは本当にYouTubeが好きだねぇ。ただ、あまり長時間見てると目が疲れちゃうし、夜寝れなくなったり、頭が痛くなったりすることがあるから、お母さんは心配なんだよね。

ステップ3:今見てる動画が終わったら、もう今日はおしまいにしない?

ステップ4:(了承してくれたら)ありがとう。

     (了承してくれなかったら)そしたら、あと10分ぐらいでやめられそう?

事例2:学校に遅刻しそうなのに朝起きるのが遅い・準備に時間がかかる時の声がけ

ステップ1:今○時だよ。

ステップ2:お布団の中にいるのは気持ち良いし、眠い時に色々準備するのは大変だよね。ただ、お母さんはあなたに遅刻してもらいたくないし、家を出るのが遅くなると、慌てて事故に遭わないかが心配だよ。

ステップ3:◯時までに出かける準備を終わらせようね。

 (具体的な指示の方がわかりやすい子であれば)時計の針が一番上に来るまでに、歯磨きして、顔を洗って、トイレに行こうね。

ステップ4:(了承してくれたら)ありがとう。頑張ってくれるの嬉しいよ。

     (了承してくれなかったら)そっか。何時までなら準備できそう?

普段のやり取りからすると、まどろっこしい感じがするかもしれません。

しかし、このように伝えると子どもは「自分がYouTubeを見たいっていうこともわかってくれてるんだな。」「お布団が気持ち良いってお母さんも知ってるんだな」「お母さんは心配してくれてるのか」と気づいてくれるかもしれません。

言葉のプレゼント

次にお伝えしたいのは「言葉のプレゼント」です。

これは、相手があなたに対して何かしらの行動を、応答をしてくれたことに対する感謝の気持ちのことです。

お礼を言う時も、「ありがとう」だけでも良いのですが、「ありがとう。あなたにそう言ってもらえて嬉しい」など、一言、言葉のプレゼントを伝えることができると、受け取った相手も良い気持ちになれます。

相手の誘いを断る際にも「ごめんね」にプラスして「誘ってもらえて嬉しかったよ。また誘ってね」と伝えると、断られた相手も「また今度誘いたいな」と思ってくれるかもしれません。

前項の4つのステップを全て言葉にするのは難しいかもしれませんが、具体的な提案言葉のプレゼントの二つを意識するだけでも、アサーティブなしずかちゃんタイプのコミュニケーションに近づくことができます。

まとめ

今回は育児に役立つ心理学として、アサーショントレーニングについてお伝えをしました。しかし、これを全て実践するのはなかなか簡単ではないと思います。

まず、Iメッセージが一番取り入れやすいのではないかと思うので、ここから意識していただけるとよいと思います。

また、言葉のプレゼントはアサーティブを目指す場面だけでなく、さまざまな場面で大事な役目を担ってくれます。子ども相手だけでなく、ご家族や職場の方相手にも、ぜひ言葉のプレゼントを贈ってみてくださいね。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。