【後編】~繊細すぎて生きづらい人たち~ HSPの対処法

こんにちは。臨床心理士の鈴木夏美です。

前回の記事ではHSPとはどういうものか、また自分がHSPか知る方法についてみてみました。【後編】となる本稿では、HSP特有のしんどさを抱えている人向けに、いくつか対処方法をご紹介したいと思います。

健康・病気
~繊細すぎて生きづらい人たち~ HSPとは何か【前編】

HSPの対処法

前回も説明したように、HSPの敏感さは生まれ持った気質なので、治療方法はありませんし、気合いや根性で変えられるものではありません。黒髪に生まれてきて、金髪になれないのと同じです。

理想は、HSPを理解し、生まれつき繊細な自分を受け入れ、その特性から生じている辛さを少しでも軽減できるよう工夫していくことです。

対処法を考える際のポイントは下記の3つです。

その1:自分だけのオリジナルの方法を見つける
その2:自分が今ネガティブに1傾いていると思ったら、その3倍はポジティブになれることをする。ネガティブ:ポジティブ=1:3で、心のバランスがとれると言われています。
その3:複数の引き出しをもち、状況に応じて使い分ける

それでは、いくつか具体的な方法をみていきたいと思います。

1)嫌な刺激から距離をおく/とにかく休む・リラックスする

否が応でも多くの刺激を受け、その処理に追われてくたびれてしまうHSP。プラスのエネルギーを吸い取られる人や場所、目には見えない汚染のある場はできる限り避けましょう。そして、自分が心地よく感じられ、リラックスできる空間で、人一倍寝るなり、心を休める時間を作りましょう。

高ぶった神経を落ち着けてくれる方法として、「深呼吸」や「瞑想」「マインドフルネス」「ヨガ」は一般的によく知られています。しかし、効果があると知っていても、「あ、今自分は不安を感じている!さぁ深呼吸しよう!」とはなかなかならないと思います。

自分の状態を客観的にみることに慣れていない人もいますし、職場でいきなり瞑想やヨガなどし始めたら、皆びっくりしてしまうでしょう。自分が置かれている環境や、その時々の状況、自分との相性、など、さまざまな面を考慮しながら自分に合った方法を探してみてください。

著者の場合は、限りなく日常の一部と化していないと、忘れていたり、わざわざ時間をとってまでやるのがおっくうになってしまいます。ですので、著者の日常の一部である、子どもと遊ぶ時間に「さりげなく」やることがあります。

「さりげなく」が著者の中でのポイントで、以前、子どもの前で「深呼吸」をやったことがあります。好奇心旺盛な子どもは、「ママ~、すーはーすーはー何やってるの~?」と目をキラキラさせて聞いてきて、なんだかバツの悪い思いをしました。

なので、子どもたちにバレないように、シャボン玉を吹いてあげるついでに「深呼吸」をすることがあります。鼻からゆっくり息を吸ってお腹を膨らませながら、できるだけ一定の間隔でゆっくりと息を吐きながらシャボン玉を吹くといった感じです。

2)自然や芸術を堪能する

HSPは、自然や芸術と相性がよく、ポジティブな影響を受けたり、癒しを得られる傾向が強いです。コロナ禍で、なかなか思うように外出できない人も多いと思いますので、室内でもできる方法を引き出しとして持っておくといいかもしれません。例えば、雑誌や写真・動画などで美しい自然や作品に触れる、といった方法です。

また、「上を見る」だけでも人はポジティブな気持ちになることが知られています。上を見上げることができ、かつ、自然を感じられる「空」は著者のおすすめです。

室内からでもできますし、子どもと外出したついでに空を見上げて、「今日のお空は綺麗だね~」とか「雲が〇〇みたいだね~」などと会話をすることがあります。

ただし、空(自然)は天候に左右されてしまいます。曇ってどんよりした空を見ても、気分は晴れないでしょう。ポイント<その3>で触れたように、対処方法が空一本になってしまうと、天気次第では使えないものになってしまいます。状況に応じて使い分けられるように、他の引き出しも用意しておきましょう。

3)自己主張の練習をする(アサーション・トレーニング)/ 自己表現できる場を見つける

HSPは、人の気持ちに人一倍敏感で、心優しい人が多いです。人の気持ちを優先してしまうがゆえに、自分の言いたいことが言えなくなってしまって、我慢することが増えてしまいます。また、何も言えずにいるうちに、何を考えているのか分からない人扱いされたり、人から怒りの矛先を向けられやすかったりします。自分と相手の問題を線引きし、自分の気持ちを伝える練習をするのも1つです。

どうしてもことばで直接伝えるのは抵抗があるという方は、別の形でも構いません。食べたら出すのと同じように、自分の中に入ってきた刺激の分だけ、外に出して心のデトックスをしましょう。

例えば、日記やブログ・SNSなどで本音を吐き出す、音楽や絵・演劇など芸術を通じて自分を表現をする、などです。

4)HSP仲間を見つけて交流する

同じ立場の人たちと交流するのもいい方法です。似たような想いをしている者同士、1から10まで説明しなくても理解しあえたり、共感してもらいやすくなります。現状はすぐに変えることはできなかったとしても、「分かる分かる~」と人から言ってもらえるだけでも、心は軽くなるものです。また、他のHSPが、どのような工夫をして、日々バランスをとっているのか参考になることもあるかもしれません。

最近は、SNSがありますので、仲間を探してつながることも容易にできます。いきなりHSPサークルのようなものに参加するのは抵抗がある方は、オープンチャットなどでまずは様子をみてもよいと思います。

5)HSPならではの長所に目を向けてみる

HSPの特性はネガティブな表現が多いですが、それはことばのチョイスのせいでもあります。ポジティブな表現に言い換えると、HSPは直観力があり、感性や想像力が豊かな人。また、誠実で良心的。よく気が利いて、人の気持ちが分かる。人のために行動できる思いやりのある人、などなど。長所となるものはいくらでも挙げることができます。

要は、長所と短所は表裏一体、ものは言いようというやつです。

気質は変えられなくても、物事をどのように捉えるかや、自分の能力や才能をどのように活かしていくかは自分自身で決めることができます。せっかく生まれ持った性質なら、自分の人生にとってプラスに働くように活かしてほしいなと思います。

これからはロボットやAIの時代です。HSPならではの創造性や発想力、直観力、芸術的センスといった人間ならではの能力や才能が重宝される可能性は大いにあると考えます。今は生きづらい社会だと感じていたとしても、この先もずっと続くとは限りません。自分の特性が武器になる時がくるかもしれないので、これからの自分はどうありたいのかを大切にしてほしいです。

6)専門家に相談する

最後に、カウンセリングを受けることも1つです。HSPとカウンセリングは相性がいいことが知られています。HSPは、自尊心が低い人が多いので、ありのままの自分を認めたり、自信を取り戻していくことが大切です。先に触れたように、自己主張できるように練習をしたり、ものの見方を変える練習を、専門家とともに行う道もあります。

また、不安が強すぎたり、うつっぽくなっていたり、不眠や腹痛があったりなど、心身に影響が出ている場合は、心療内科や精神科を受診するようにしましょう。

まとめ

HSPの生きづらさというのは、なかなか周囲に理解してもらえず、もどかしい思いや悲しい気持ちになることも多いと思います。まだまだ研究が浅い分野ではあるものの、自分の傾向を知り、少しでも自分が楽でいられる方法を探っていくしか、今のところ打開策はなさそうです。

HSPは幸い、ネガティブなことだけではなく、”ポジティブなことにも人並み以上に強い影響を受けることができる”のです。美しいものを見て、人一倍美しいと感じたり、楽しい人といて、人一倍楽しい気持ちになれる特典つきです。悪いことばかりではないので、持ち前の想像力や独創性をフルに活用して、自分だけのトリセツを考えてみてくださいね。

著者プロフィール

鈴木 夏美(すずき なつみ)

臨床心理士
ココロト メールカウンセラー

アメリカで心理学を、日本で臨床心理学を学んだ後、臨床心理士となりました。これまで、子どもの発達や心の問題への療育やカウンセリングに携わってきました。また、企業で認知行動療法(CBT)をベースとしたうつ病の予防プログラムを実施。海外での生活経験があり、海外におけるメンタルヘルスの問題にも関心が高いです。英語での相談も可。2児のママで、子育てに奮闘中です。