【言い訳が多い・チャレンジしない】子どものセルフ・ハンディキャッピングに対する声がけの工夫

皆さん、こんにちは。臨床発達心理士/公認心理師の遠藤です。本稿はお子さんのセルフ・ハンディキャッピングにテーマを当て、親として、保育士や先生として、周りからどのような声がけができるかを考えていきたいと思います。

お子さんに対して「言い訳が多いな」「消極的でチャレンジしないな」と感じているのであれば、ぜひ参考にしていただければと思います。

セルフ・ハンディキャッピングとは

あなたのお子さんは人から頼み事をされたときや、新しいことに挑戦するとき、自信を持って取り組めていますか?

私は子どもの頃、家族や先生、周りから何か頼まれると、「やったことがないからできないかもしれない」「苦手な分野だから、多分うまくできない」とよく答えていました。それで、母親から「あなたは、本当はできるのに『できない』って答えるよね」と言われたことがあります。

それというのも、私は周りの人から「それ、違うんじゃない?」と指摘されるのが怖いと感じていたからです。そのため、「やったことがないのだから失敗しても仕方ないよね」という印象を事前に相手に与えることによって、自分を守ろうとしていました

心理学ではこれを「セルフ・ハンディキャッピング」と言います。

本当は勉強したのに「勉強していない」という、あれです。

こちらも、先ほどの例と同様に自分を守る行動と言えます。

・よくない結果だとしても、勉強していないから仕方ないと思える
・勉強していなくても成績が良いという印象を与えたい

いずれの例も、自分にハンディキャップを課すことで、たとえ失敗したとしても他の何かのせいにすることで自分を守ろうとする行動です。

セルフ・ハンディキャッピングを研究されている学習院大学の伊藤忠弘先生によると、セルフ・ハンディキャッピングは2種類あるとされています。

2種類のセルフ・ハンディキャッピング

  1. 主張的セルフ・ハンディキャッピング
    主張的セルフ・ハンディキャッピングは言葉によるセルフ・ハンディキャッピングです。「あまり勉強できなかった」「苦手な分野だった」などと周りの人に言いふらし、達成できなかったのは自分のせいではないと主張します。
  2. 遂行的(獲得的)セルフ・ハンディキャッピング
    遂行的(獲得的)セルフ・ハンディキャッピングは行動によるセルフ・ハンディキャッピングです。試験前日に敢えて遊ぶなど、あらかじめ自分にできない原因を作ってしまいます。

セルフ・ハンディキャッピングのメリット/デメリット

セルフ・ハンディキャッピングは防衛本能の一つですので、心やプライドを守れるというメリットがあります。その反面、セルフ・ハンディキャッピングが癖になると次のようなデメリットとなる行動が多くなってしまいます。

①言い訳が増える
セルフ・ハンディキャッピングは自分の行動に予防線を張る行動ですので、とにかく言い訳が増えてしまいます。やり始める前の言い訳、できなさそうだと思ったときの言い訳、実際できなかったときの言い訳…。これを繰り返せば言い訳の達人になってしまいます。

②チャレンジしなくなる
「〇〇だからできない」ということばかり繰り返していると、できない自分・やれない自分は当たり前になっていきます。せっかく何かやりたいと思っても、「できないかもしれない」と思えば行動そのものを起こさなくなってしまうでしょう。

セルフ・ハンディキャッピングをしてしまう原因とは

私は長らく小学校のスクールカウンセラーをしていましたが、子どもたちの授業を見ていると、課題への取り組み方に様々な違いがあることが分かります。

たとえば…

  • 先生が自分を見ていても、自信をもって行動する子
  • 先生に確認しながら進める子
  • 先生や友達に見られないように行動する子
  • そもそも先生のことなんか眼中にない子(笑)

課題に取り組んでいるときに、「できないかもしれない」「不器用だから下手になる」「苦手だから失敗する」というような発言を繰り返して、結局は周りの子や先生にやってもらおうとする子はセルフ・ハンディキャッピング傾向が強いと言えそうです。


セルフ・ハンディキャップをしてしまう背景には次のような要因があると思われます。

セルフ・ハンディキャッピングをしてしまう要因

  • 自分がしたことに対して、親や先生に怒られたり責められたりした経験がある
  • 褒められた経験が少ない
  • 良い結果を求められる
  • クラスメイトの前で怒られるのは恥ずかしい

誰でも失敗する経験はなるべく避けたいものです。しかし、失敗は「不完全である自分」を受け止めるために大切な機会です。完全な人はいません。不完全であることはむしろ普通であるということを、幼いときから確認する必要があるのです。

子どもへの声がけの工夫

声がけの工夫1:子どもへの声がけを振り返る

もし、お子さんにセルフ・ハンディキャッピングの傾向がある場合、まずはあなたや周りの方がお子さんにどのような声がけをしているか振り返り、子どものしたことを咎めるような声がけが多くなっていないか、チェックが必要です。

なんでそういうやり方なの?

もっと上手にやって

他にやり方あるでしょ

このような声がけはお子さんのセルフ・ハンディキャッピングを高めてしまうかもしれません。

声がけの工夫2:他の子と比較した声がけはしない

また、他の子と比較した声がけも控えましょう。

例えば、「あの子がうまくやってたから、きっと大丈夫だよ」というポジティブなものだとしても、それが時として強いプレッシャーになることもあります。

本人の口から「あの子がやってたから私もやってみようかな」という言葉があれば背中を押すべきですが、大人が率先して言うことは避けましょう。

声がけの工夫3:行動の結果よりチャレンジに着目する

もしも実際に行動できたときには,

やれたね!

楽しそうだったからまたやってみよう

がんばったところが見れてうれしいよ

などと声をかけてあげるといいと思います。

「うまい」「もっとできる」などの結果を評価するような声がけは大げさにしすぎないことも大切です。結果ではなく、行動できたこと自体を褒めるのです。

小さな成功体験をいくつも積み重ねていくことで、やってみることは恐くない、やってみないと何も始まらないという経験につながっていきます。この小さな成功体験は幼いときの体験がより重要で、成長したときに自分を支える土台となります。

まずはやってみること!結果は大して重要ではありません。結果が伴わなくても、挑戦することを避けず行動できることに着目して声がけを意識しましょう。

まとめ

セルフ・ハンディキャッピングは自分が傷つかないようにする大切な防衛本能です。しかし、それが癖になってしまうと、何かに言い訳ばかりしてチャレンジしない、つまらない毎日を作ってしまうかもしれません。

日々の生活の中で、小さなことでもチャレンジできるのはとても大切なことです。チャレンジは生活を豊かにし、充実させてくれます。

もしお子さんや家族に思い当たるところがあり、そしてそれを改善したいと思っているならば、ぜひ本稿を参考にしてみてください。

この記事の著者

遠藤 彩(えんどう あや)

公認心理師・臨床発達心理士・産業カウンセラー・自閉症スペクトラム支援士。白百合女子大学大学院博士課程単位取得退学。カウンセリング施設でのインテークやスクールカウンセラーなどの臨床経験を持ち、自閉症スペクトラム支援士の資格を生かして発達障害等の相談業務を担当。現在は、企業の人事分野における教育や状況分析などにも携わる。その他、大学・短期大学・専門学校・高校などで心理学の授業を多く担当。専門は生涯発達心理学。