~繊細すぎて生きづらい人たち~ HSPとは何か【前編】

こんにちは。臨床心理士の鈴木夏美です。

最近、「HSP(Highly Sensitive Person)=敏感すぎる人」という言葉をよく耳にするようになりました。 お笑い芸人の田村淳さんなど、有名人が次々とHSPだとカミングアウトしたことで、一般にも広く知られるようになったように感じます。

ところで、あなたや周りの人が「あの人、繊細だよね~」と口にする時、それはいい意味で使っているでしょうか?

おそらく、ちょっと悪口よりというか、ネガティブな意味合いの方が強いのではないでしょうか。「繊細であること」は、日本ではあまり肯定的に受け止められている印象はありません。

自分は自分として生きやすい西欧よりも、場の空気を読み、人に合わせて協調することを重んじる日本の方が、HSPはより生きづらさを抱えているのではないかと想像しています。HSPが少しでも生きやすい社会を作るためには、たくさんの人にHSPについて知ってもらい、理解を得る必要があるでしょう。

本稿では、【前編】【後編】に分けてHSPについてご紹介したいと思います。

HSPとは何か?

HSPとは、25年前にアメリカの心理学者エイレン・N・アーロン博士によって提唱された概念です。人一倍刺激に敏感に反応してしまう気質をもった人のことです。

髪や肌の色と同じように、生まれつきのもので、性格でも病気でも障害でもありません(性格とは、生まれてから成長するにしたがって作られていく考え方や行動パターンのことです)。国籍や性別、年齢は関係なく、人口の15~20%が該当します。

HSPには内向型外向型の2つのタイプがあります。内向型は、意識が自分に向きやすい人のことで、外向型は外に向かいやすい人のことです。HSPの30%は外向型と言われており、一見繊細で傷つきやすい人とは無縁そうに見えるかもしれません。

外向的なHSPは、刺激を求め、人といることを好みます。冒険心も旺盛で、同じことの繰り返しに飽きてしまいがちです。そのため、多趣味で、さまざまな習い事をしていたり、転職や転居を繰り返す人もいます。

一見とてもアクティブで、社交的で精力的な人。これの何が問題なの?という感じもします。とても魅力的に映る性質を持っていると同時に、HSP特有のささいな刺激に過敏で、疲れやすい面も持ちあわせています。「アクセルを踏みながら、同時にブレーキも踏んでいる」という表現をされます。

HSPの原因

HSPは遺伝子で決まると考えられています。加えて、家庭や学校など、自分をとりまく環境にも影響されます。同じ環境で育った一卵性双子を対象とした研究では、遺伝と環境の影響は、ほぼ半々との結果が出ています。

また、海外の人に比べると、日本人の方が割合としては多いのではないかと言われています。日本の文化や国民性も影響していると思われますが、HSPは俗に「不安遺伝子」と呼ばれる、セロトニン・トランスポーターS型が関与しています。

セロトニンとは、「幸せホルモン」と言われている脳内物質のことです。足りなくなると、イライラしたり、不安になったり、うつっぽくなったりします。セロトニン・トランスポーターには、S型とL型の2種類があり、S型はセロトニンを少なく、L型は多く作ります。

ほとんどのHSPがセロトニン・トランスポーターS型を持っていますが、このS型を持っている人が世界一多いのは、日本人なのです。HSPと遺伝の研究は、まだまだデータが少ないので、今後も新たな発見があることと思います。

HSPの4つの特徴~「DOES(ダズ)」

次は、HSPの特徴をもう少し詳しくみていきたいと思います。アーロン博士によると、「DOES」という4つの特性を全て満たすことが、HSPの定義となっています。

1.Depth of Processing:物事を深く考える

  • 「気になったことは、いろいろと調べて深く掘り下げる」
  • 「物事を始めるまでにあれこれと考え、 とりかかるまでに時間がかかる」
  • 「浅い人間関係や、表面的な会話が苦手」

上記のように、慎重で、一を聞いて十のことを考えられる人といった感じでしょうか。リラックスしている状態の時は特に、深く考える脳の領域が活発に働くようです。

2.Overstimulation:過剰に刺激を受けやすい

  • 「人混みや、大きな音が苦手」
  • 「仲の良い間柄だとしても、 気疲れしやすい」
  • 「刺激から隔離された空間で、1人の時間が必要」

ささいな刺激に過敏なため、処理する情報が多くなりがちです。そのため、神経をすりへらして疲れやすく、ストレスとなる場所や人を避ける傾向があります。

3.Emotional Reactivity/ Empathy: 感情への反応が強く、 共感力が高い

  • 「どうしてそんなバレバレのお世辞や嘘が言えるのだろう」
  • 「人の気持ちや考えなんて分からなければいいのに」
  • 「TVや映画、本などに感情が揺さぶられすぎて辛い」

人の感情を敏感に察知し、共感力が非常に高いことも特徴です。相手の感情に引きずられやすく、あたかも自分の気持ちかのように体験してしまうことがあります。また、共感するだけにとどまらず、人のために実際に何かをしたい・行動したいと思う人が多いようです。

4.Sensitivity to the  Subtle: ささいな刺激を察知する

  • 「多くの人が気づかないような音や匂いに気づく」
  • 「衣類の素材がチクチクして我慢できない」
  • 「痛みに敏感」
  • 「コーヒーなどに含まれているカフェインや食品添加物に強く反応する」

視覚、聴覚、臭覚などの5感の1つ(あるいは複数)が非常に優れています。自閉症スペクトラム障害の人が訴える「感覚過敏」と似ていますが、HSPと発達障害は共感性の有無や、脳の働き方の違いからも別物だとされています。

いかがでしょうか。自分はこれは当てはまるけど、これは全くないなど、人によって当てはまる特徴や、感じる度合いも違います。しかし、4つのカテゴリー全てに該当しているかどうかがポイントです。

自分がHSPかを知るには?

HSPは気質であって、病気でも障害でもないので、病院へ行って診断してもらえる類のものではありません。しかし、ひょっとしたらHSPかもしれないと、もやもやしている方もいるでしょう。

先述の「DOES」の特徴だけでは分かりにくい方は、アーロン博士のセルフチェックテストを参考にしてみてください。以下のような質問に「はい」「いいえ」で答え、自分がHSPかどうかを知ることができます。

HSPセルフチェックテスト(一部)

1. 感覚に強い刺激を受けると容易に圧倒されてしまう
2. 自分をとりまく環境の微妙な変化によく気づくほうだ
3. 他人の気分に左右される
4. 痛みにとても敏感である
5. 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋などプライバシーが得られ、刺激から逃れられる場所にひきこもりたくなる
6. カフェインに敏感に反応する
7. 明るい光や、強い匂い、ざらざらした布地、サイレンの音などに圧倒されやすい
8. 豊かな想像力を持ち、空想に耽りやすい
9. 騒音に悩まされやすい
10. 美術や音楽に深く心動かされる
11. 時々神経が擦り切れたように感じ、一人になりたくなる
12. とても良心的である
13. すぐにびっくりする(仰天する)
14. 短期間にたくさんのことをしなければならない時、混乱してしまう
15. 人が何かで不快な思いをしている時、どうすれば快適になるかすぐに気づく(たとえば電灯の明るさを調節したり、席を替えるなど)
(著者の許可を得て掲載しています/引用元:『敏感すぎる私の活かし方』エレイン・N・アーロン著、パンローリング刊)

このような質問が全部で27問あります。

14個以上に「はい」と答えたあなたは、HSPの可能性が高いです。もし該当する数が2~3個しかなかったとしても、それが非常に強くあてはまるものだったとしたら、HSPの可能性があるとのことです。

インターネット上にもありますので、詳しくチェックしてみたい方は、こちらをご参照ください(http://hspjk.life.coocan.jp/Self-Test.html)。

セルフテストをする際の注意点

このテストは「DOES」の特徴を網羅しているわけではないため、HSPを正確に測れるわけではないことに注意が必要です。

また、このような質問形式のテストへの答えは、あくまでも自己申告なので、信ぴょう性が曖昧です。質問に対する受け止め方は人それぞれですし、そもそも質問の意味がよく分からないという人もいるかもしれません。特に、海外のものを訳している場合は、日本語が不自然に感じることもあり、作成者の意図とはニュアンスが異なって受け取られる可能性もあります。

さらに、「繊細さ」に対してどのような価値観を持っているかによっても、結果が左右されることがあります。実際、HSPは男女比に差がないにもかかわらず、男性の方がスコアは低くでるようです。

文化によっては、「繊細な女性」よりも「繊細な男性」の方がネガティブなイメージがあり、自分自身も、社会的にも受け入れられなさがあるのでしょう。そのため、男性の場合は14個以上当てはまらなかったとしても、HSPでないとは言い切れません。

テストの結果が全てではないということを頭の片隅において、あくまでも参考程度に使ってください。また、自分ではHSPだと思っていても、発達障害や不安障害といった心の問題の可能性もあります。治療の対象になる場合がありますので、自己判断だけでHSPだと決めつけず、必要に応じて医師に相談するようにしましょう。

まとめ

近年、世界中にHSPの概念が広まり、多くの共感を呼んでいることは、国籍や性別・年齢を問わず、どれだけたくさんの人が生きづらさを抱えているかを物語っています。

HSPはその特性から、精神的に疲弊しやすく、周囲の理解も得られにくいため、2次的な問題として不眠や頭痛、うつや不安障害など体やこころに影響がでることもあります。刺激をシャットアウトするために、不登校や引きこもりになっている人もいるかもしれません。また、発達障害児・者として生活している人もいるかもしれません。

このような問題に発展するのを防ぐためには、まずはHSPに対して知識を得ることです。自分がHSPだと知るだけでも、気持ちが軽くなる場合もあります。そして、周囲や専門家に助けを求めたり、自分なりにできることを見つけて対処していくことも大切です。

次回【後編】では、「HSPの対処法」をテーマにお届けしたいと思います。

著者プロフィール

鈴木 夏美(すずき なつみ)

臨床心理士
ココロト メールカウンセラー

アメリカで心理学を、日本で臨床心理学を学んだ後、臨床心理士となりました。これまで、子どもの発達や心の問題への療育やカウンセリングに携わってきました。また、企業で認知行動療法(CBT)をベースとしたうつ病の予防プログラムを実施。海外での生活経験があり、海外におけるメンタルヘルスの問題にも関心が高いです。英語での相談も可。2児のママで、子育てに奮闘中です。