乳幼児健診(1歳6か月健診)の相談現場から
こんにちは。東京女子体育大学・東京女子体育短期大学で教員をしている臨床心理士・公認心理師の青山有希です。
今回は乳幼児健診(1歳6か月健診)について、皆様と一緒に考えたいと思います。今、著者は大学教員の仕事をしておりますが、それまでは現場で臨床をしており、教育相談員・就学相談員・スクールカウンセラー等の仕事をしてきました。現在は、大学の仕事の合間をぬって、乳幼児健診の心理相談等を行っています。今回はその現場で感じたことをお伝えできればと思います。
乳幼児健診
乳幼児健診事業は「母子保健法」という法律に基づいています。1歳6か月児健診、3才児健診は「法定(ほうてい)健診」とも呼ばれていて、どこの自治体でも必ず実施しています。その際に心理職が配置されています。自治体によっては心理職のほかに言語聴覚士や作業療法士も配置されています。
乳幼児健診では問診、身長、体重、歯と体の診察等を一通り行います。保護者の希望があったり、お子さんの状態を診たりして、栄養相談・心理相談等を利用できます。
心理相談でお会いする時は、保健師から心理相談を勧めた場合、小児科医が勧めた場合、保護者自らのニーズがある場合が多いです。なかには、事前に「明日の乳幼児健診で心理相談を受けたい」と事前に相談予約をされる方もいらっしゃいます。
相談の少ない時は、私は空き時間に健診会場を回って様子を見守ります。特に、私は帰りがけの様子を見守ることを意識しています。それと言うのも、乳幼児健診では問診、身長、体重、歯と体の診察等を一通り行ったあとに、「結果報告」があるからです。
そこで、疾患の疑いがあった場合に紹介状の発行があったり、年齢に比しあまりにも身長や体重の成長が心配な場合は経過観察をさせていただいたり、発達が少しゆっくりめの場合に保健師から心理相談を勧めたりします。心理相談は任意のものですので、勧められたからといって、必ずしも相談を受けなければならないということはありません。「私は、受けません」と意思表示することもできます。
保護者の方にとって、やはり結果報告はドキドキするものと思います。私自身も3人の子どもの乳幼児健診がありましたが、専門職ゆえに流れや内容も知っているだけ、変な汗をかいたものです。
結果報告をおえて、友人の保護者と一緒に帰るときの様子は、「うちの子、絵カード(身近なものの絵を提示して、車はどこにあるかな?などとスタッフがお子さんに質問します)で何を聞かれてもアンパンマンとしか言わなかったの!どうしよう。やばいよね。」という声や、「うちも引っかかったよ。言葉が少ないみたいなことを言われた。うちの子、何かあるのかな。今まで言葉のことなんて気にしていなかったけど、今日の健診に来たら、他のお友達はけっこうしっかりおしゃべりしていて、びっくりした。うちは、この子が初めての子どもだし、このくらいの年齢の子どもなんて、こんなものかなと思っていたよ。」など、率直な感想のやりとりがあります。
そのようなやりとりを耳にすると、本当に保護者の方はドキドキハラハラしながら、乳幼児健診に来てくださっていることが伝わってきます。お友達と一緒に健診に来た方は、気持ちを共有することでずいぶんほっとされることもあるのだろうなと推察いたします。
上記のやりとりにもあったように、1歳6か月健診では、指差しの有無や種類(指差しにはいくつかの種類があります)、意味のある言葉の有無を確認して、お子さんの発達状況を確認します。もちろん発達には個人差がありますので一概には言えません。上の保護者の言葉で「引っかかった」という表現がありますが、乳幼児健診はスクリーニングの意味合いもあるため、心配なお子さんの場合は、経過観察等のフォローや専門相談での助言や療育機関等の紹介を行います。
心理相談を活用しましょう
問診等では、時間をかけて丁寧にお話を聞いたり、お子さんの様子を見たりはできないので、心理相談では丁寧にお話を聞き、助言をしています。私が手伝っている自治体では、心理職が保護者の相談を受けている間に、保健師がお子さんについて一緒に遊びながらアセスメントをしています。心理職も保護者の相談を受けながら時折お子さんと話したり、行動観察したりして、アセスメントを行います。
心理相談に来る方の中には、「引っかかるなんて思いもしなかった」とつらい表情を浮かべる方もいますが、著者は「専門職を上手に活用してほしい」と提案したいです。
たとえば、最近の心理相談で一番多いのは「意味のある言葉が少ない」や「意味のある言葉を言わない」というご相談です。
そのような時に著者がよく見るのは、意味のある言葉がでていなくても、抑揚のある喃語(意味の伴わない声)があるかどうかという点です。保護者の方には「嬉しそうな時に、嬉しそうな喃語でていますか?怒っているんだろうなという時に怒っている感じの喃語でていますか?」ということです。
ここで喜怒などの感情が伴う喃語が出ていたら、意味のある言葉が出るのは時間の問題だなと見立てます。そしてそれを保護者の方に伝えます。またそのような感情の込められた喃語が出ている時に「嬉しいねぇ」「やだったねぇ」と保護者の方にお子さんの気持ちを代弁する言葉を添えるようお願いします。そうすることでお子さんが、自分の今の感情とそれに見合う言葉を学べるからという理由も添えてお伝えします。
すると、保護者の方も「あーそうやって対応すればいいのか」と先ほどとは打って変わって、きらきらした明るい表情に変わります。
他の例では、意味のある言葉が出ないというお子さんの、家庭でのやりとりを「具体的」に伺います。すると、お子さんが言葉で訴えないからか、保護者の方が「察する」ことでやりとりが成立していることが少なくありません。「うちの子はジュースしか飲まないから、外から帰宅したらジュースを渡している」などという形で保護者の方がお子さんの気持ちを「察して」対応されています。
そのような時は、率直に「もったいない感じがします」とお伝えます。私は「そういう時に、お茶とジュースを両方提示して、どっち飲みたいの?と聞くといいかなと思います」とお伝えします。そうすることで、お子さんが指差しで示し、それを受けて保護者の方が「チャチャが飲みたいのね」とあえて伝えることで、言葉の獲得に結び付くやりとりができるため、日常生活でそういうお子さんが自分で発信するやり取りを重ねていけるとよいだろうということをお伝えします。
私が乳幼児健診の心理相談で心がけているポイントは3点です。
①親子の生活のやりとりを具体的に聞き取り、②その親子ができるであろう助言を行い、③相談に来た保護者が「相談してよかった」と思えるように「相談の良さ体験」を味わってもらうということです。
心理士によってポイントは多少異なるかもしれませんが、多くの心理職がこのように心がけながら、心理相談に臨んでいます。ですので、ドキドキハラハラされるかと思いますが、ぜひ「専門職を上手に活用していただきたい」と思います。
著者プロフィール
青山有希
臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士
3児の働く元気なママ。「きらりと光るカウンセラー&大学教員&ママであるべし」がモットー。