こんなにも違う!海外と日本の子育て事情 ③大人時間を楽しむ
こんにちは。臨床心理士の鈴木夏美です。
本連載では、主にアメリカと日本で親がどのように子どもに関わる傾向があるかを見てきました。過去の記事は下記をご覧ください。
こんなにも違う!日本と海外の子育て事情①離乳食編
こんなにも違う海外と日本の子育て事情 ②親ファーストvs子どもファースト
最終回の第3回目は、「親が自分の時間を楽しむ」がテーマです。
育児には、悩みやストレスがつきものです。子どもとべったりの日々に疲れたり、ストレスが溜まっていたりすると、「子どもと離れる時間を持ちましょう」「自分の時間を持ちましょう」とアドバイスをされます。
みなさんは、ママが自分の時間をもつことにどのような印象を持っているでしょうか?子どもを置いて自分だけが楽しむなんて「子どもが可哀そう」だと思いますか?「母親失格」だと感じますか?はたまた、「そりゃ当然でしょ~」と思いますか?
日本でも、若い世代を中心に、ママが自分の時間をもてるように理解・協力してくれるパパも増えているようです。しかし、例えば、ママが夜飲みにいこうものなら、「子どもをおいて夜出歩くなんて」と、未だに周囲からの風当たりが強かったりすることもあります。ママ自身、抵抗がある方もいることでしょう。また、いざ1人の時間ができたとしても、「何をしていいか分からない」という人もいます。
個人の感じ方や、社会全体の在り方として、まだまだ親が自分の時間を楽しむというのは日本人にとっては”不慣れな”印象です。
それでは、アメリカではどうだったのか、著者の体験を交えて一部紹介していきます。
アメリカの場合 -Mom’s Night Out-
著者が住んでいたアメリカでは、親が自分の時間や夫婦だけの時間を持つことは当たり前で、とても自然なことだと感じます。「Mom’s Night Out」といって、夜ママ友同士でお互いの家や、レストランなどで集まってお酒を飲んだり、遊んだりすることもよくあります。また、「Parents’ Night Out」といって、夫婦だけで映画を見たり、食事をしたりしてデートをする時間を定期的にもうけます。
その間、子どもはパートナーや、親(義親)、友人、同じ教会に通うメンバーなどが見てくれます。日本では親子関係を重視する傾向がありますが、アメリカでは個人の楽しみや幸せを追求するのは当然の権利です。また、夫婦関係を良好に保つことが、子どもの幸せにとっても重要だという考え方から、このような風習が根付いています。
外国人が多い地域に行くと、キリスト教会でボランティアの人たちが英語を教えてくれるところがあります。アメリカ人の約8割はキリスト教徒で、外国人をはじめ、社会的に孤立しがちな社会的弱者を地域を支えることや、子育てのよき味方として教会の果たす役割は依然大きいと言えます。
著者の通っていた英会話教室では、教会の人たちがこれもまたボランティアで子どもを見てくれました。授業を受けている1~2時間の間、ママたちは子どもと離れて英語の勉強(や、雑談)に専念することができました。
また、スポーツジムに通う人が多いアメリカ。自分の時間を楽しむ上で、ジムもありがたい存在でした。
著者が入会していたジムでは、1日2時間を上限に0~12歳までの子どもを預かってくれました。小学生の場合は、学校の宿題をみてくれる時間枠も設けられていました。シッター代は月謝に含まれているので別途費用はかかりません。その気になれば、毎日でも2時間は無料で(?)子どもを預かってもらえることになります。
そのジムは、筋トレや運動できるスペースだけでなく、カフェや美容院、エステサロンなどが併設されていました。運動したくない気分だとしても、カフェでゆっくりコーヒーを飲んだり、読書をしたり、ぼーっとしたりする使い方も可能でした。
定期的に1~2時間だけでも子どもと離れる時間ができると、少しの申し訳なさもあるためか、とても子どもに優しくなれました(すぐに元通りになりますが笑)。
ジムの毎月のイベントにも「Mom’s Night Out」と「Parent’s Night Out」の日は必ずあり、子どもを預かってくれる場所の選択肢が多いと感じました。
日本の場合 ~自分の時間を持つのは難しい? ~
それでは、日本ではどうでしょうか。内心、自分の時間が欲しいと思いながらも、実現することが難しい人が多いのではないでしょうか。難しさを生じさせているものは、現実的な問題とママの気持ちの問題に分けることができそうです。
現実的な問題の例
1)配偶者の帰宅が遅いため、平日はワンオペ状態で育児。休日も配偶者は出かけてしまう、あるいは家でゴロゴロしている(自分の時間を過ごしている)
2)両親(義親)や預けられる友人などが近くにいない
3)お金がネックになって自分の時間を作ることの弊害になっている
気持ちの問題で多いのは、主に子どもに悪いことをしているような気がして、罪悪感を感じることです。繰り返しになりますが、日本では、個人や夫婦関係よりも親子関係を重視する傾向があります。そのため、子どもよりもママ自身を優先させているかのように感じられ、罪悪感や抵抗感が生まれやすいです。もし、気持ちの問題の方が大きいかなという方は、自分の中にある「引っかかりポイント」を探ってみることから始めてみましょう。
自分の中にある「引っかかりポイント」を探ってみる
以下のもので、自分自身が許容できるものはどのくらいありますか?
- 休日、夫に子どもを預けて1~2時間ほどカフェにいく
- 休日、親に子どもを預けて1日好きなことをする
- 夜、夫(親)に子どもを預けて友だちと飲みに行く
- 1人で、あるいは、友だちと日帰り旅をする
- 1泊2日の国内旅行にいく
- 1週間ほど海外旅行にいく
何か、引っかかるものはありましたか?子どもを預けづらいと感じる理由は、預ける相手でしょうか?出かける時間でしょうか?時間の長さでしょうか?時間の使い方でしょうか?他にも色々な引っかかりポイントがあることと思います。
著者の体験 ~子どもをおいて日本へ一時帰国~
最後に、著者の体験をシェアしたいと思います。
著者がまだアメリカに住んでいた頃、日本に数日間一時帰国する用事ができました。当時子どもは1人で、1歳くらいだったと思います。家から家までの移動にほぼ丸1日を要し、10数時間の子連れ飛行機移動は悲惨なものになるのが分かっていました。できれば1人で帰りたかったので、主人に相談したところ承知してくれました。さすがに全日仕事を休むわけにはいかなかったので、友人たちにも日中のお世話をお願いし、1人での一時帰国は実現しました。
これを読んで皆さんはどう思われたでしょうか?様々な意見があるかと思います。現に、このことを知っている人の中には、「子どもを置いていくなんて、ご両親は何も言わなかったの?!」と驚き、否定的なニュアンスで言う人もいました。
許容できるラインは人それぞれ違いますし、良いも悪いもありません。しかし、自分の中のOKラインがどこにあるのか探してみると、様々な価値観が潜んでいることに気づくと思います。もし、子どもを預けて自分の時間をもつことに抵抗があるなら、一度考えてみてはいかがでしょうか。
まとめ
今では核家族が当たり前になった日本ですが、元来は集団主義社会で、家族や友人、近所の人や地域の人たちと共に子育てをしていました。欧米化に伴って個人主義の傾向が強まり、ほとんどママ1人で家事・育児(人によっては仕事も)をする家庭が増えました。
海外の人からは、「日本人は社会的に孤立している」とよく言われます。1人で子育てをするというのは、そもそも無理があることなので、ストレスになって当然です。ストレスが溜まっている時は、こまめに自分をケアしてあげることが大切です。その1つとして、子どもや配偶者のためだけに時間を費やすのではなく、”心から”自分の時間を楽しむことについても考えてみてほしいと思います。
著者プロフィール
鈴木 夏美(すずき なつみ)
臨床心理士
ココロト メールカウンセラー
アメリカで心理学を、日本で臨床心理学を学んだ後、臨床心理士となりました。これまで、子どもの発達や心の問題への療育やカウンセリングに携わってきました。また、企業で認知行動療法(CBT)をベースとしたうつ病の予防プログラムを実施。海外での生活経験があり、海外におけるメンタルヘルスの問題にも関心が高いです。英語での相談も可。2児のママで、子育てに奮闘中です。