叱り方、指示の出し方のコツ【育児に役立つ心理学】

こんにちは、臨床心理士/公認心理師の八木経弥です。

近年「褒める育児」という言葉をよく耳にしますが、子どもと一緒に過ごしていると、褒めるばかりではいられないというのが現実ではないでしょうか。今回は育児をするうえで切っても切れない「叱る」という行動、そして「指示を出す」という行動についてお話しさせていただきたいと思います。

肯定的な言葉かけを心がける

叱るとき、ついつい「〜しちゃダメ!」「〜しないで!」と声をかけていませんか?子どもは否定的な言い方をされると、反抗してさらに望ましくない行動を起こすことがあるかもしれません。

× 走っちゃダメ!
〇 歩こうね

× 椅子の上に立っちゃダメ!
〇 椅子にお尻をつけて座ろうね

× お茶をこぼさないでよ!
〇 コップをしっかり持ってね

× 宿題する前にテレビつけないの!
〇 宿題してからテレビを見ようね

とはいえ、歯ブラシを咥えたまま歩いたりしていると、つい「やめなさい!」と言いたくなりますよね。

そのような場面では、まず子どもの行動を手で制しましょう。歩く子どものからだを抱っこして動きを止め、歯ブラシを口から外します。そして「歯磨きは座ってしてね」と伝えます。

もちろん危険な行動は危険な行動と伝えなければいけません。ですが、感情的に叱ってしまうと、本当に伝えたいこと「歯ブラシを咥えたまま歩くと、転んだときに大きな怪我をするかもしれない」が伝わらなくなってしまいます。

普段、肯定的な言葉かけが多いほど、ここぞというときの厳しい言葉かけの効き目があります。

命令形はなるべく避ける

子どもに何かしらの行動をしてもらいたいとき、できるだけ「〜して!」「〜しなさい!」という命令形の言い方はやめましょう。このような言い方をされると、カチンときませんか?そして、そのような言い方をされて育つ子どもは、自分も人に命令をするようになります。

それでは、命令形の言い方以外の方法には、どのような方法があるのでしょうか。「おもちゃを片付けて欲しい」という場面での例を以下に挙げます。

丁寧語を使う

・「~してください」

「おもちゃを片付けてください」と、丁寧に伝える。丁寧語でお願いされると、子どもも良い気分になります。

断定的に言う

・「〜します」

「おもちゃを片付けます」と断定するように言う。

ただし、きつい調子で言うと叱っているように聞こえるので、言い方には注意が必要です。

行動を一緒にしようと誘う

・「〜しよう」

「おもちゃを片付けよう」と、一緒にやろうと誘う。

一人でやるよりも、一緒にできる、ということが子どもにとっては行動にうつしやすくなるコツです。

疑問系で問いかける

「〜したかな?」

 「もうおもちゃ片付けたかな?」と疑問系で言葉をかけます。

「おもちゃで遊んだらどうするんだっけ?」「おやつの前には何をするんだっけ?」など声をかけると、自分で気づいて行動できることが増えます。

非言語(指差しなど)

トントンと、子どもの肩を叩いておもちゃを指さしします。この時のコツは、決して怒った顔ではなく笑顔であることです。

クイズを出す

「おもちゃで遊んだら〜?」と、途中まで大人が言葉を言い、続きを子どもに言ってもらいます。「お母さんが途中で言うのやめるから、続き言ってよ」など、先にクイズを出すことを示しておいても良いかもしれません。続きを言葉で言わなくても、行動に移すことができればOKです。

10秒カウント

「おもちゃ片付けようよ」「パジャマもう着れた?」など、上記の言葉かけがうまくいかないときなどは、この方法が使えます。

「おもちゃ、10秒で片付けられるかな?せーの、1、2、3、4…」とカウントを始めると、それまで見向きもしなかった子どもが急に行動し始めたりします。カウントが終わるより早く、全て終えることができた場合には「すごーい!そんなに早くできるのね!」「6秒でできちゃったよ!」と褒めましょう。

次からは、いかに早く行動できるか、という勝負になってくるかもしれません。

この方法は、何かをするときだけではなく、何かをやめたいときにも使える方法です。例えば、テレビを長時間みているとき、なかなか遊びをやめられないときなどに「あと10数えたら終わるよー。」と声をかけて「1、2、3、4…」と数えてみましょう。

具体的な指示

意外と気づかないのが、「どのように指示を出すか」ではないでしょうか。

私もつい「ちゃんと座って」というように「ちゃんと〜して」「きちんと〜して」という言葉かけをしがちなのですが、この「ちゃんと」「きちんと」というのは子どもにとっては非常に分かりづらい言葉です。

「おもちゃを片付けて」というのも、どう片付けて良いかわかりません。だからこそ、具体的に指示することが大切です。

お尻を椅子にペッタンして座ってね

椅子に座ったら、手はお膝の上だよ

本は本棚に戻そうね

積み木はこの箱の中に入れるんだよ

どうですか?これなら子どもも、どのように行動すれば良いのか分かりやすく、行動にうつしやすくなると思いませんか?

また、「おもちゃを片付けて」という場合、おもちゃがたくさん出ていると、何をすれば良いのかわからなくなるかもしれません。そのような場合には、「最初に積み木を箱に入れようね」と声をかけ、それができたら「次は本を本棚に戻そうね」と声をかけるなど、ひとつひとつ確認しながら声をかけることが大切です。

年齢別の伝え方

子どもへの伝え方は年齢によっても変わってくると思います。上記の伝え方は、主に言葉の理解が進んできた2歳半から3歳以降のお子さん相手に有効な方法です。それより年齢の低いお子さん相手の伝え方、また、それぞれの年齢別の伝え方のコツについて、参考までに、著者が意識しているところをお伝えしたいと思います。

10ヶ月以降

表情で伝える。まだ叱られる理由まではわからないので、なんとなく「いけないのかな」と感じる程度。

1歳半以降

よくない行動をしたら、その場で短く叱る。例えば、牛乳をわざと机にこぼしたら「飲み物で遊んじゃいけません」など。

2歳半以降

なぜそのような行動をしたのか、理由や気持ちを聞く。どうしてそのような行動をしてはいけないのか、ルールを伝える。例えば、道路に飛び出そうとしたら「急に道路に飛び出すと、車に轢かれちゃうかもしれないよ」など。

4歳半以降

「して欲しいこと」「してはいけないこと」を具体的に説明し、子どもと一緒に「どうしたら良いか」について話し合う。例えば、喧嘩をして友だちを叩いてしまった場合、「叩くのは良くない」ことを伝え、どうして叩いてしまったのか、経緯を尋ねる。そのうえで「今度からは、叩くのではなくて、言葉で伝える」ことを話し合う。

まとめ

今回は、叱り方、指示の出し方のコツをお伝えしました。

これら全てを急に変えることは難しいですが、思い出したときだけでも、ひとつだけでも、お試しに実践していただけると嬉しいです。個人的には「10秒カウント」は非常に効果があるなーと感じており、それまで全く行動せず好き勝手遊んでいた娘が急に走ってきて、行動し始めるのを見ると、ついつい笑ってしまいそうになります。

きっとお子さんによっても、向いている方法、向かない方法があると思いますので、色々と試してみてくださいね。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、4歳と2歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。