こんなにも違う!日本と海外の子育て事情①離乳食編
皆さん、こんにちは。臨床心理士の鈴木夏美です。
著者は臨床心理士で、2人の子どもを育てるママです。以前に9年ほどアメリカに住んでいたことがあり、上の子はアメリカで出産と育児を経験しました。下の子は日本で出産して、子育てしています。
アメリカに滞在中、中国・韓国・メキシコ・ブラジル・コロンビアなど、さまざまな国から来ている友人やママ友との関わりがありました。自分が外国人という立場におかれ、異文化に触れることで、日本という国や日本人についてより意識し、考えさせられることが増えました。
子育てに関して言うと、「日本人のママはとても頑張っている、そして疲れている」というのが個人的な印象です。けっして他国のママが子育てを頑張っていない、疲れていないという意味ではありません。“日本人らしく”、真面目に・誠実に・丁寧に子育てに向き合っているからこそ、子育てにおけるストレス度が高いように感じています。
他国での子育て事情や、個人的な経験をシェアすることによって、日本のママたちが今よりほんの少しだけでも楽に、肩の力を抜いて子育てできるきっかけになればと思い、本連載を書かせていただきます。
第1回目は、「離乳食」がテーマです。
日本の離乳食の進め方「細やかなマニュアル」
子どもが5カ月くらいになると離乳食を始めると思いますが、離乳食作りって本当に大変ですよね。5~6カ月は離乳食前期の「ごっくん期」、7~8カ月は中期の「もぐもぐ期」、9~11カ月は後期の「かみかみ期」、そして1歳~1歳半ごろは移行期とされ、大人に近いご飯を食べられるように徐々に慣らしていくのが「日本の一般的な離乳食の進め方」です。
各段階で、野菜や肉などの大きさや調理法も異なります。人参を1つ例にとってみます。ごっくん期では、人参をかなり柔らかく茹でて、裏ごししたり、すり鉢でつぶしたり、水分やとろみを加えてどろどろの状態にします。もぐもぐ期では、3mm角程度に切って、指ですぐに潰せる柔らかさまで煮ます。かみかみ期では、野菜の大きさは5mm程度、硬さは指に少し力を入れると潰れる程度にします。力加減なんて人それぞれでしょうから、分かりやすいようでいまいちよく分からないなと思ったものです。
基本的には、素材の味を活かして、薄味を心掛け、味覚を育てることが大切だと考えられています。「薄味」とはどれぐらいかというと、例えば7~8カ月頃に使えるお醤油の量は「0.7ml」程度です。0.7mlを正確に計っている人がどれぐらいいるかは疑問ですが、それくらい緻密に丁寧にするのが日本の教科書通りの進め方です。
アメリカの離乳食事情「基本作らない」
一方、アメリカでは、あまり離乳食を手作りすることはありません。日本のように炭水化物・たんぱく源・ビタミン源を毎食の中に用意して、栄養バランスを考えて作ることはさらにありません。基本的に市販のものを買って与えるし、何カ月から使えますという食材によっての目安はありますが、ずっとペースト状で、日本でいう「もぐもぐ」も「かみかみ」も考慮されていない形状です。かと思えば、1歳を過ぎると「大人と同じものを食べさせてください」と、医師などから指導されます。
大人と同じものを食べさせてください。
え…?本当に?
私も含めて、現地の日本人ママと話していると、みな「本当に同じもの食べさせて大丈夫なの?」と驚きと不安まじりでした。まさにカルチャーショックです。自分の英語力の問題で、聞き間違えたのかと思い、何度も医師に確認したというママもいたくらいです。
アメリカで大人と同じ食べ物というのは、冷凍ピザや、フライドポテト、着色料まんてんのビビッドカラーのクリームがふんだんに使われたケーキやカップケーキなどが含まれます。味は濃いし、油分・塩分も多く、日本のものとは比べものにならないくらい激甘です。アメリカ人の方には失礼ですが、「こんな不健康そうなもの赤ちゃんに食べさせたくない」「味覚がおかしくなるんじゃないか」というのが本心でした。
著者の悩み~食べてくれない離乳食を捨てるだけの日々~
上の子の離乳食を始めるとき、私は楽しみで楽しみで仕方がありませんでした。初めての子ということもあり、手間暇をかけて愛情のこもったご飯を作ってあげたかったのです。市販のものを買うという選択肢ははなからありませんでした。
はじめてのミルク以外の食べ物。「どんな反応をして食べるんだろう。驚くかな、美味しくてニコニコ笑うかな」「かわいい反応を動画におさめて将来の記念にしたい」とワクワク感でいっぱいでした。
ところが、我が子はちっとも離乳食を食べてくれませんでした。何を作っても拒否拒否拒否。本に載ってある通りに柔らかく茹でて、すりつぶして、裏ごしして…。あの小さな口に入る、たった1さじの離乳食を作るためだけに、どれだけ時間と労力がかかるでしょう。それなのに、嫌がってギャーギャー泣かれる。作っても作ってもゴミ箱に直行するだけのご飯。あれだけ楽しみだった離乳食の時間が、苦痛な時間へと変わっていきました。
次第に私の中では「どうせ今日も食べないんだろうな」「なんで食べてくれないの、こんなに頑張ってるのに」とネガティブな感情が勝っていき、食べてくれない子どもに対してイライラするようになりました。
そんな状態が2カ月続きました。
ヨーロッパ出身のママ友がくれた衝撃のアドバイス
困り果てて友人に相談してみることにしました。相談した相手は、ヨーロッパ圏出身の6カ月の子をもつママです。
うちの子、全然離乳食を食べてくれないんだけど、どうやってる?
すると、衝撃の答えが返ってきました。
茹でたブロッコリーをそのまま握らせてガジガジ食べさせているわ。
「手づかみ食はまだまだ先の話だよな・・」と、最初は冗談かと思いましたが、彼女は真面目に答えてくれていました。
詳しく聞いてみると、Baby Led Weaning (ベビーレッドウィーニング:BLW)法といって、ヨーロッパのいくつかの国では一般的な方法なのだそうです。噛む力をつけることや、自分で食べる楽しみを育てることを大切に考えており、離乳食を始めてすぐの頃から咀嚼力をつけられるような食材をそのまま与えるのだそうです。
彼女の話を聞いているうちに、すっと力が抜けて視野が開けました。
あぁ、そうか、私がやっていたのは日本のやり方というだけだったんだ。アメリカを含め、色々な国にはそれぞれのやり方や基準があって、何も1つのやり方にこだわらなくてもよかったんだ!
そして、この時もう1つ思い出したことがありました。著者の親(=日本人)に相談した時に、「もぐもぐ期が・・・」なんて話をしても、「何それ?」といった様子で話が通じません。「著者の好物は卵かけご飯だったわよ~」と言っており、「今時生卵を赤ちゃんに食べさせたりしないよ。まったく参考にならないな」と思ったことです。
著者が固執していた日本のいわゆる一般的なやり方もまた、親の世代には存在しておらず、近年できた方法でしかなかったことに気づきました。その時々の時代とともに変化していく1つのやり方にこだわって、一人ストレスをためていたんだと気づきました。
その後、完全に欧米スタイルでとはいかないまでも、自分の中ではかなり「適当」で「手抜き」ができるようになりました。また、手作りへのこだわりも捨てることができました。面倒くさかったり、疲れている時は市販のものに頼るようにし、日本の伝統的な食事らしい1汁3菜のような献立にするのもやめました。作ったものを捨てるだけだと、なんだかあほらしくなってしまうので、どこかの誰かの役に立ってくれればと思い、某レシピサイトに作ったものを載せました。
不思議なことに、ほどなくしてわが子は離乳食をモリモリ食べるようになりました。ひょっとすると著者の気迫というか、焦りやイライラなど負の感情が伝わっていて、著者と同様、離乳食の時間が苦痛な時間になっていたのかもしれません。
まとめ
今回はアメリカで経験した離乳食の話でした。みなさんも、子どもに市販の食べ物を食べさせる罪悪感、手抜きをする罪悪感はありませんか。手料理を作る=愛情、手間暇をおしまない=愛情、という考えがどこかにありませんか。
おそらく日本人として日本に生まれ、生きていく中で、知らないうちにどこかで刷り込まれてきた「母親」のイメージや、自身の理想のようなものがあると思います。それは誰しも持っているものですし、どのやり方ががいい悪いということでもなく、正解もありません。
しかし、もし自分の首を自分で締めている価値観があるとしたら、新しく自分に合うやり方を見つけて、少しでもストレス少なく子育てをして欲しいなと思います。
著者プロフィール
鈴木 夏美(すずき なつみ)
臨床心理士
ココロト メールカウンセラー
アメリカで心理学を、日本で臨床心理学を学んだ後、臨床心理士となりました。これまで、子どもの発達や心の問題への療育やカウンセリングに携わってきました。また、企業で認知行動療法(CBT)をベースとしたうつ病の予防プログラムを実施。海外での生活経験があり、海外におけるメンタルヘルスの問題にも関心が高いです。英語での相談も可。2児のママで、子育てに奮闘中です。