④育児コミュニケーションを改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】

今回のアサーショントレーニングでは、事例をもとに育児場面の実践的なコミュニケーションについて考えていきます。

本題に入る前に、以前の記事を読んでいない方や内容を忘れてしまった方向けに、簡単に内容を振り返ります。


前回までの復習

第1回の復習:アサーションとは

アサーション第1回では、コミュニケーションのパターンを以下の3つに分けて考えました。

  • 自分の意見ばかりを主張する「ジャイアンタイプ」
  • 消極的で自己主張するのが苦手な「のび太くんタイプ」
  • 自分の意見も相手の意見も大事にする、さわやかな自己表現ができる「しずかちゃんタイプ」

「しずかちゃん」のコミュニケーション方法が一番理想的ではあるけれど、常に「しずかちゃん」である必要はなく、自分の意思で「のび太くん」と「ジャイアン」を選択することができるのが、アサーショントレーニングの目指すコミュニケーションだというお話をしました。


第2回の復習:アサーショントレーニングの方法とコツ

アサーション第2回では、アサーションの方法としてIメッセージと4ステップのコミュニケーション法を学びました。

Iメッセージとは「私は」を主語にしたメッセージのことで、たとえば「早くしなさい!」→「私はあなたに急いで欲しい」というようにメッセージを伝えることで、ネガティブな気持ちでも相手を責めるニュアンスではなく、客観的な情報として伝えることができます。

4ステップのコミュニケーションは、下記のステップを順に行うことで相手の気持ちを害することなく、はっきりと気持ちを伝えることができる方法です。

4ステップのコミュニケーション

ステップ1:状況を受け止めて、自分は感情的にならないように気持ちを落ち着ける

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント。

もし、アサーションのことがよく分からないという方は、前回までの記事を先に読んでおくことをお勧めします。

アサーション
①アサーションとは【ドラえもんで理解するアサーション】
アサーション
②アサーショントレーニングの方法とコツ【ドラえもんで理解するアサーション】
アサーション
③夫婦関係を改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】

アサーションで育児コミュニケーションを改善する

嬉しくも辛い妊娠期間を終えて、いざ出産。そして、その後やってくる育児、育児、育児。
子どもが生まれると、それまでとは人間関係やコミュニケーションが変わってきます。子ども中心の関わりになったり、家族とのコミュニケーションがこれまでと変わったり、新たにママ友とのコミュニケーションが生まれたり…。

こうしたコミュニケーションの変化は人生をより豊かなものにしてくれますが、時としてストレスになったり、悩みの種になったりもするものです。今回は、そのような育児にまつわるストレスフルな状況で、自分も相手も楽になるアサーティブなコミュニケーションを考えていきたいと思います。

事例で学ぶ!育児のアサーティブコミュニケーション

それでは、いくつかの事例をもとに育児でのアサーティブコミュニケーションについて考えていきましょう。

事例1:朝の準備に時間がかかる

あなたは朝、家を出る時間が近づいているのに、なかなか朝の準備が進まない子どもに対してイライラしています。「早くしなさい!」と何度も叱りますが、子どもはのんびりと朝食を食べています。あまりに準備が進まないので「準備できないなら、明日からもう朝ごはんはいらないね!」と怒鳴ってしまい、子どもは「そんなのいやだ〜」と泣き出してしまいました。

もぐもぐ…もたもた…(のんびり食べている)

早くしなさい

もぐもぐ…もたもた…(のんびり食べている)

準備できないなら、明日からもう朝ごはんはいらないね!

そんなのいやだ〜(泣く)

このような状況は多くのご家庭でも見られているのではないでしょうか?かく言う我が家も毎朝似たような状況になっています(笑)

さて、このような状況を、前回まで練習した4つのステップに沿って、声かけの仕方を工夫してみるとどうなるでしょうか

(再掲)4ステップのコミュニケーション

ステップ1:状況を受け止めて、自分は感情的にならないように気持ちを落ち着ける

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント。

事例1の言い換え

朝ごはん食べるのに時間がかかるね。(ステップ1)

しっかり朝ごはんを食べるのは大事だけれど、あまりゆっくり食べていると幼稚園に遅れないか心配になるよ。(ステップ2)

8時までには食べ終われるようにしてね。(ステップ3)

私自身も、子どもに「早くして!」と言いがちです。

しかし、子どもにとっての「早く」と、私たちにとっての「早く」というのは、そもそも感覚が違う可能性はありませんか?

そのため、急いで欲しい時には具体的に「○時○分」、「時計の長い針が一番上に来るまでに」など、子どもにも分かる伝え方をすることが大事です。

そうすると、子ども自身も見通しが立てやすくなり、「それまでに頑張って準備する」もしくは「自分じゃできないから手伝って欲しい」などヘルプを出すこともできるようになるのではないでしょうか。


それでは、別の事例を見てみましょう。

事例2:子どもの帰りが遅い

中学生になったばかりの子どもが、部活動が終わるはずの時間を過ぎてもなかなか帰ってきません。やっと帰ってきた子どもに「今何時だと思ってるの!」と言うと、子どもは「8時」と答えるので「そんなこと聞いてるんじゃないよ!」と、口論になってしまいました。

今何時だと思ってるの!

8時

そんなこと聞いてるんじゃないよ!

この「何時だと思っているの」というのは間接的なコミュニケーションです。

このとき、親が思っていること、感じていることは「予想より遅い時間になっても帰って来ないので心配している」ということではないでしょうか。
それを伝えずに「何時だと思ってるの」と言うだけでは、子どもに対する心配の気持ちは一切伝わりません

では、どのように言い換えると良いのでしょうか。

事例2の言い換え

もう8時だね。(ステップ1)
部活も大変なのもわかるけど、こんな時間まで連絡もないと、私はあなたに何かあったんじゃないかと思ってすごく心配になるよ。(ステップ2)
もう少し早く帰ってくるか、遅くなりそうなときは連絡してもらえると嬉しいな。(ステップ3)

どうでしょう。こう言われると、子どもも「心配させちゃったんだなぁ」と思ってくれそうではないですか?

もちろん、反抗期で「しらねぇよ」と言われる可能性もありますが、それでも、心のどこかでは「心配してるのか」と思ってくれるのではないでしょうか。


また別の事例を見てみましょう。

事例3:子どもがゲームをやめない

子どもが学校から帰ってきてからずっとゲームをしていて、宿題をする気配がありません。何度か「そろそろ宿題したら?」と声をかけますが、「うん」「わかってる」という返事をするだけでゲームをやめません。そのためイライラが大きくなって、「いいかげんゲームをやめないと、ゲーム捨てるからね!!」と怒鳴ってしまいました。

ピコピコ…(ゲームに夢中になっている)

そろそろ宿題したら?

うん、わかった。ピコピコ…(ゲームに夢中になっている)

いいかげんゲームをやめないと、ゲーム捨てるからね!!

これも、家庭内でよくある場面なのではないでしょうか。やめないのはゲームだけでなく、スマホやテレビということもあるかと思います。これも、アサーティブに言い換えてみましょう。

事例3の言い換え

あなたは本当にゲームが好きだねぇ。(ステップ1)

ゲームが楽しくてやめられないのもわかるけど、そろそろ宿題をやらないと夜寝るのが遅くなっちゃうんじゃない?(ステップ2)

先に宿題をやってから、後で続きをしたら?(ステップ3)

ただ、これだけだと言い換え前と変わらず「うん」という返事だけで終わる可能性もあります。

その場合にはステップ3で、「ゲームのせいで宿題ができないなら、1週間くらいゲームはお母さん(お父さん)が預かっておくね」「あと5分で電源を切るよ」など、具体的な交渉をするのも方法です。

ただし、ここで注意したいのは、アサーションはあくまで自分の気持ちを伝える方法であり、相手の行動を自分の思う通りにするものではないということです。

自分の感情や要求をアサーティブに伝えたとしても、それを受け取った相手がどのような行動を取るかは、相手次第だということを忘れてはいけません。

アサーションによる「もう一つの効果」

親が子どもに対してアサーティブであろうとすることは、子どもに自分の気持ちを伝えやすくなるだけではなく、別の効果もあります。

それは、大人が子どもに対して自分の気持ちを率直に伝えるようになると、子どももそのような伝え方をするようになるということです。

子どもは身近な大人の話し方やコミュニケーションの取り方を、知らず知らずのうちに真似して自分のものにします。そのため、近くにいる大人がアサーティブなコミュニケーションをしていると、その子自身もアサーティブなコミュニケーションをする可能性が高いのです。

どうですか?

ちょっと、お子さんに対してアサーティブなコミュニケーションを取りたくなりませんか?

親子コミュニケーションのコツはIメッセージ

とはいえ、これまでのコミュニケーションをアサーティブなものに変えるのは簡単なことではありません。

前回のコラムでは、夫婦関係のコミュニケーションには言葉のプレゼントが効果的だとお話しさせていただきました。

もちろん、親子関係でも言葉のプレゼントは大切です。

しかし、親子関係では特にIメッセージを意識してもらいたいと思います。

どうしても、親は子どもに「こうあって欲しい」「こうなって欲しい」という思いが出てくるものです。そうすると、「私があなたにこうあって欲しい」と思っているはずなのに、ついつい「こうあるべき!」ということだけを伝えてしまいがちです。

早くしなさい

片付けなさい

宿題しなさい

遊んでないで早く寝なさい

そこで、これらのメッセージをIメッセージで言い換えてみましょう。

私はあなたに急いでもらいたい

散らかっていると私は落ち着かないから、あなたに片付けてもらいたいの

宿題を後回しにすると、宿題をする時間がなくならないか心配なので、私は宿題を先にやったほうが良いんじゃないかと思っているよ

寝るのが遅くなると、明日の朝起きるのが辛くなるから、私はあなたに早く寝て欲しいな

あなたが子どもに「〜して!」「〜しなさい!」というその言葉の裏には、このような思いが隠れていませんか?

「私は〜」という言い回しを意識すると、その思いに気づき、そんな自分に驚くかもしれませんよ。

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。