③夫婦関係を改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】

前回までの復習

今回はアサーショントレーニング第3弾ということで、夫婦間のコミュニケーションという実践的なテーマを扱っていきたいと思います。

本題に入る前に、以前の記事を読んでいない方や内容を忘れてしまった方向けに、簡単に内容を振り返ります。


第1回の復習:アサーションとは

アサーション第1回では、コミュニケーションのパターンを以下の3つに分けて考えました。

  • 自分の意見ばかりを主張する「ジャイアンタイプ」
  • 消極的で自己主張するのが苦手な「のび太くんタイプ」
  • 自分の意見も相手の意見も大事にする、さわやかな自己表現ができる「しずかちゃんタイプ」

「しずかちゃん」のコミュニケーション方法が一番理想的ではあるけれど、常に「しずかちゃん」である必要はなく、自分の意思で「のび太くん」と「ジャイアン」を選択することができるのが、アサーショントレーニングの目指すコミュニケーションだというお話をしました。


第2回の復習:アサーショントレーニングの方法とコツ

アサーション第2回では、アサーションの方法としてIメッセージと4ステップのコミュニケーション法を学びました。

Iメッセージとは「私は」を主語にしたメッセージのことで、たとえば「早くしなさい!」→「私はあなたに急いで欲しい」というようにメッセージを伝えることで、ネガティブな気持ちでも相手を責めるニュアンスではなく、客観的な情報として伝えることができます。

4ステップのコミュニケーションは、下記のステップを順に行うことで相手の気持ちを害することなく、はっきりと気持ちを伝えることができる方法です。

4ステップのコミュニケーション

ステップ1:状況を受け止めて、自分は感情的にならないように気持ちを落ち着ける

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント。

もし、アサーションのことがよく分からないという方は、前回までの記事を先に読んでおくことをお勧めします。

アサーション
①アサーションとは【ドラえもんで理解するアサーション】
アサーション
②アサーショントレーニングの方法とコツ【ドラえもんで理解するアサーション】

夫婦間のアサーションは難しい?

最近、アサーショントレーニングは書籍や記事だけでなく、社員研修や小学校の授業など様々な所で取り上げられるようになりました。しかし、実践してみるとなかなか難しい場面も多いようです。今回のテーマである夫婦関係も、その一つであると言えるでしょう。

特に今はコロナ禍の状況で、夫婦揃って自宅でリモートワークという方も少なくないのではないでしょうか。夫婦とは言え、元々の生活スタイルも考え方も異なる二人ですから、一緒にいる時間が長くなるとストレスが溜まるのは仕方のないことかもしれません。

在宅しているなら家事だってできるんじゃない?

在宅ワークの大変さを理解してもらえない。

家にいるのに育児してくれないの?

家事や育児をしても、やり方が違うと怒られる。

手伝ってくれるのは良いけど、やり方が違うからイライラする…。

あなたも似たような経験はありませんか?

今回は、このような夫婦関係の中で、ストレスを溜め込まない・極端に爆発しない、適切な自己主張の仕方を見ていきたいと思います。

夫婦だからこそ陥りがちな「察してよ」コミュニケーション

あなたはパートナーや家族に、自分の感じていることや望んでいることを言葉にできていますか?毎日一緒に過ごしている家族だと、つい相手に「察してよ」という態度になりがちです。

事例を見てみましょう。          

事例1:食事の準備

今日のあなたはとても疲れていて、食事の準備や家事をとても苦痛に感じています。幸い、今日はパートナーが家にいるので、できれば食事の準備はパートナーにしてもらいたいと思っています。

はぁ…。なんか今日はしんどいなぁ…

今日は休みだし、ゆっくり休みなよ

「なんか今日はしんどいなあ」とパートナーにも聞こえる声の大きさでつぶやくと、パートナーは「今日は休みだし、ゆっくり休みなよ」とは言ってくれますが、自分が食事を作る素振りは見せません。

あなたは、積極的に食事の準備をしないパートナーにイライラしています。

あなたもこのような経験はありませんか?毎日一緒に過ごす家族だからこそ、しっかりと意見を伝えた方が、きっとお互いの居心地が良くなるはずです。

この事例を、前回のコラムで紹介したIメッセージと4つのステップを使ったコミュニケーションを意識するとどうなるか、試してみましょう。

【再掲】4ステップのコミュニケーション

ステップ1:状況を受け止めて、自分は感情的にならないように気持ちを落ち着ける

ステップ2:相手の立場や気持ちに共感し思いやる内容と、事態に対する自分の感情を率直に表現する

ステップ3:相手にとってもらいたい行動や、自分がとりたい行動を、1つか2つ具体的に伝える

ステップ4:ステップ3に対する相手の反応(肯定的または否定的)によって、自分がどういう行動を取ることを選ぶのか(さらに交渉するのか)、どういう気持ちになったのかを伝える。言葉のプレゼント。

事例1は、以下のように言い換えることができます。

はぁ、なんか私、今日はしんどいなぁ。(ステップ1)

あなたも疲れてるところ申し訳ないんだけど、食事の準備をするのは辛いから、(ステップ2)

今日はあなたに作ってもらってもいい?(ステップ3)

そうすると、相手は「わかったよ」と答えてくれるかもしれませんし、「自分もちょっとしんどいから料理をするのは嫌だなぁ」と答えるかもしれません。

そうしたら、それに対して「ありがとう(ステップ4)」と答えることや、「じゃあ、今日はもうレトルトにしちゃおうか(ステップ4)」など、異なる具体案を提示することもできます。


もう一つ、事例を見てみましょう。

事例2:家の片付け

今週はお互いに仕事が忙しく、さらに家の中で子どもがおもちゃで遊んでいたので、家の中が大変散らかっています。あなたは、家の中が散らかっていると落ち着かないので、パートナーと一緒に片付けをしたいと思っています。

今日はすごく家の中が散らかっているね。(片づけを始める)

忙しかったからねぇ(スマホを見ている)

そこで「今日はすごく家の中が散らかっているね」と言いながら、近くにあったおもちゃや本を片付け始めたのですが、パートナーは「忙しかったからねぇ」と答えるだけで、一緒に片付けをする様子がありません。

あなたはイライラして、ついつい乱暴な手つきで片付けをします。
そうするとパートナーに「そんなに乱暴に片付けると、壊れない?」と言われてしまい、余計にイライラが大きくなってしまいます。

この例も、思い当たる人は多いのではないでしょうか。こちらの事例も、 Iメッセージと4つのステップを使ったコミュニケーションに直してみましょう。

事例2の言い換え

今日はすごく散らかってるね(ステップ1)

君も自分も忙しかったから、なかなか片付ける時間が取れなかったけど、やっぱり散らかってると落ち着かないなぁ(ステップ2)

今から片付けたいんだけど、一緒に片付けない?(ステップ3)

このように伝えることができます。

そうすると、相手は何を求められているかがはっきりとわかるので、「そうだね、片付けようか」と答えてくれることもあるでしょうし、「ちょっとまだしんどいから、後でもいい?」と相手から交渉してくることもあるでしょう。

それに対して、お礼を言ったり、「一緒に片付けてくれるから、助かるよ」など、言葉のプレゼントを伝えても良いですね。


さて、2つの例を見ていただきましたが、どのような印象を受けましたか?「察してよ」という態度ではないので、気持ち良い、爽やかな印象を抱いたのではないでしょうか

また、ここで大切なのが、「相手を思いやる言葉を一言入れる」ということです。

「疲れてるとこ申し訳ないんだけど」や「お互いに忙しかったから」など、自分の希望だけでなく、相手のことも考えてるんだよ、慮ってるんだよ、ということを伝えるだけで、相手は「あ、私のことを大切にしてくれてるんだな」と感じることができます。

パートナーとの関係をびっくりするくらい改善する「言葉のプレゼント」

4ステップのコミュニケーションは、慣れないうちは少々難しいと感じる方もいるかもしれません。
そういった方にお勧めしたいのが、先ほどの4ステップのおいしいとこ取りでもある「言葉のプレゼント」を使う方法です。

この「言葉のプレゼント」を意識して使うことで、パートナーとの関係をびっくりするくらい改善することもできます。


お互いのことが好きで、尊敬しているからこそ夫婦になった二人でも、長く生活をしていると相手を労う言葉や感謝の言葉を言う機会は減ってくるもの。

そこで、パートナーに「言葉のプレゼント」を贈ってみてはいかがでしょうか?ささいなことと思うかもしれませんが、その効果は非常に大きなものです。

外で働くのって大変だよね

家のことをしてくれてありがとう

人間関係、疲れるでしょ?

子どもと一日中一緒にいるの、大変だよね

今日も一日お疲れ様

君が笑っていると、安心できる

いつもありがとう

普段生活しているなかで相手を労う言葉や感謝の言葉を言う機会は意外とないものです。だからこそ、意識して言ってみませんか?普段、言葉のプレゼントを贈ることに慣れていない方ほど、最初は恥ずかしくてなかなか言えないかもしれません。しかし、毎日ひとつでも言葉のプレゼントを贈っていくと、少しずつ慣れてきて自然にプレゼントを贈ることができるようになります。

言葉のプレゼントは、受け取る方はもちろん、贈る方も気持ちが良くなるプレゼントです。
今日の言葉のプレゼント、あなたはパートナーにどんな言葉を贈りますか?

この記事の著者

八木 経弥(やぎ えみ)

臨床心理士/公認心理師。心療内科での心理検査や心理カウンセリング、児童相談所の判定業務や教育委員会での教育相談等を経験してきました。 現在、3歳と1歳の娘の育児に格闘しながら、改めて子どもの発達について復習させてもらっています。