適応障害について【分かりやすく解説】

皆さん、こんにちは。精神保健福祉士の角谷です。

本稿を書いている6月という時期は「新年度からの様々な環境変化にやっと慣れてきた(適応できてきた)」という方がいる反面、「心身ともに変化になかなか追いつけず(適応が難しく)、大変な思いをしている」という方もいるかと思います。後者の場合、今の環境への適応が難しいことで、心身の不調や生活上の問題が生じてしまう場合があります。

今回は、このような環境への適応が難しいことで様々な問題を抱えてしまう「適応障害」について、解説していきます。

適応障害とは

日常生活の中で、誰しもストレスを感じる場面はあるかと思います。たとえば、家族や友人、職場での人間関係や、試験やプレゼン等のプレッシャーがかかるイベント、仕事や育児の忙しさ、入学や入社、昇進による役割の変化、結婚などの環境の変化など、挙げればキリがありません。

これらのストレスにうまく適応できない状況が続くと、「会社に行くのが辛くて起きられない」、「遅刻が増える」、「仕事や家事が手につかない」、「ふとしたことで涙が出てしまう」というように仕事や学業、家庭生活に支障を来たすほど過剰な反応を起こしている状態を適応障害といいます。

適応障害の症状としては、下記のものが挙げられます。

身体面の不調

  • 頭痛
  • めまい
  • 息切れ
  • 動悸
  • 倦怠感(全身のだるさや熱っぽさ)

精神面の不調

  • 憂うつな気分
  • 不安感
  • 焦り
  • 意欲や集中力の低下
  • イライラ

これらの症状は主にストレスに直面しているときに出現し、ストレスから離れているときには比較的安定する傾向があります。

注意していただきたいのは、ストレスに感じる出来事には、結婚や就職等、ポジティブな出来事も含まれるという点です。また、どのような環境や状況が強いストレスになるのかには個人差があります。

なお、適応障害は、きっかけとなる出来事や変化といったストレス要因が生じてから3ヶ月以内に発症するとされています。

適応障害の対処法

医療機関を受診しましょう

上記で挙げたような不調がある場合、心療内科や精神科の受診し、専門医に精査してもらうことをお勧めいたします。

「心当たりはあるけれど、この症状で受診していいの?」
「他の人はもっと辛くても頑張っているだろうから、自分も我慢しなくちゃ」
と受診をためらう方もいるかもしれません。しかし、ストレスの感じ方は人それぞれですので、自分で判断せず専門家に相談しましょう。

また、心療内科等の受診は少々ハードルが高いと感じる場合、電話相談が可能な医療機関もあります。先に電話で問い合わせてみるのも手段の1つです。「どこの医療機関に相談すればいいか分からない」、「医療機関に相談する程でもないかもしれない…」といった場合は、最寄りの保健所や保健センター等に問い合わせてみるのもよいかと思います。

ストレス環境から離れて休養を取る

対処法としては、まず「一旦ストレス環境から離れてしっかり休養をとり、生活リズムを立て直す」ことが必要です。「からだが資本」というように、まずは日々の生活を見直して安定したリズムで過ごせるまでに自身を回復させ、ストレス対処を行う体力・気力を取り戻すことが最優先です。

お仕事をされている方の場合、医療機関を受診した際に主治医から休職を勧められる場合があります。その際、原則として主治医から診断書を発行してもらい職場に提出する必要があります。診断書の発行には時間がかかることもあるため、不調を感じるときは早めの受診をお勧めします。

休職中は企業の就業規則が適用されるため、企業によっては給与の支給停止も有り得るというデメリットはありますが、休職せず無理をして働き続けた場合、「症状を悪化させて心身を壊し、治療に長い年月が必要になる」といった危険性があります。

また、不調のまま仕事を続けると「遅刻や欠勤が増える」、「ケアレスミスが増える」、「イライラしやすくなり、職場の人と衝突することが増える」等、問題がいくつも起こり、最終的に自分の評価を下げることや、職場に不利益を生じさせること、病状の悪化に繋がる可能性もあります。

ちなみに、休職中の経済面の対策として、傷病手当金の受給申請をする方法もあります。休職中の給与支給がない場合、健康保険証に記載のある協会けんぽ支部に相談してみるとよいでしょう。

環境調整をする

生活リズムおよび心身の状態がある程度安定した上で、「環境調整」を試みます。

 例えば、「仕事でほぼ毎日残業をして帰宅時間が遅くなり、十分に休めないことが辛い」場合には、残業をしなくてもすむように、上司や人事部等に相談して仕事量を減らしてもらうことや、就業時間を1時間だけ繰り上げてもらうこと等が考えられます。「業務内容自体が自分に合わないかもしれない」と負担に感じている場合は、部署異動を相談することもあります。

休職中で復職を希望されている方の場合、復職前に本人と職場(必要であれば支援者が介入)で事前に相談して決めていきます。もちろん、職場や支援者等と相談してよく考えたうえで、転職するというのも環境調整の1つです。

仕事以外でも、「家事に追われて強い疲労やストレスを感じる」のであれば、「料理や洗濯は自分がするけれど、皿洗いや乾いた洗濯物をたたむのは相手にお願いする」といった役割分担をすることが、負担軽減方法の1つになり得ます。

上記のように、部署異動や転職等で環境をガラッと変えることもあれば、家事を少し分担してみるという変化の小さい方法を試す等、様々な方法があります。ご自身の置かれている環境により、調整可能な範囲は変わってくるかと思いますので、家族や友人等の身近な人、職場の人、支援者等、色々な人と相談してみてはいかがでしょうか。

対処法を探して実践する

環境調整を行った後は、ストレスを溜め込まず上手に解消できる方法を自分なりにいくつか持っておくとよいでしょう。

ストレス解消法は、「どのようなことをすると少しでも気持ちが和らぐか」、「なるべく場所や時間を気にせずできるものは何か」等、自分の好きなことや気軽にできるものが効果的だと思います。

ストレス対処法の例

  • 嫌なことやモヤモヤすることをノートに書き出し、思考と感情をリセットする
  • 好きなデザインのスクィーズ(発砲ウレタンやスライム等でできた低反発の感触を楽しむ小物)を持ち歩き、ストレスを感じたときにこっそり握って気を紛らわす
  • イライラしたとき等に何度か深呼吸をして呼吸を整える
  • 出勤前や休憩時間にイヤホンで好きな音楽聴き、気持ちを落ち着かせる
  • 家で好きな映画やドラマを見て泣く・笑う等、して気持ちをスッキリさせる

ちなみに著者は、「1日のうちの少なくとも10~15分くらいは、お気に入りの香水の香りや紅茶の風味等をじっくり楽しむ時間をとる」、「平日にお仕事を頑張ったご褒美として、休日には大好きな甘いスイーツを買って食べる」、「休日に好きなユーチューバーのゲーム実況動画をみる」等があります。

また、ストレスを生じさせる要因の1つである「偏った考え方・行動パターン」に気づき(自己理解)、そのパターンを変える「認知行動療法」という方法もあります。認知行動療法は医療機関やカウンセリングセンター等で実施している他、書籍でセルフワークができるものもあります。ココロトでも認知行動療法に関するコラムを用意していますので、参考にしていただければと思います。

認知行動療法
認知行動療法とは ~分かりやすく解説~

 ストレスの感じ方や効果を実感できる対処法等は、かなり個人差が大きいです。したがって、ストレスに負けないようにするには、自分に合った対処法を用意しておくことが必要です。対処法はあればあるほど自分の助けになるため、皆さんもぜひ考えてみていただければと思います。

まとめ

適応障害と似ている疾患として、うつ病があります。適応障害とうつは重複したり、適応障害からうつに移行するケースもあります。いずれにしても、医療機関を受診し、専門医にしっかりと診てもらうことが重要です。

このブログをご覧いただいている皆さんのなかにも、毎日何かしらのストレスに晒されて、辛い思いをなさっている方がたくさんいらっしゃるかと思います。そういった方も、1週間のどこか1日でもいいので、たまにはゆっくり休む時間をとって、毎日頑張って生きているご自分をぜひ癒してあげてくださいね。

この記事の著者

角谷 まさひろ

精神保健福祉士。精神科医療機関のソーシャルワーカーとして、入退院の支援や生活・就労・その他の相談業務、精神科デイケア・リワークの運営業務を担ってまいりました。発達障がい専門の医療機関での勤務経験があり、発達障がい者の方やご家族、勤務先の企業様といった方々からのご相談に応じることが多くありました。現在は福祉施設にて精神障がい者の方々の就労支援に携わっており、様々なリワークプログラムの運営を担っております。