⑥職場でのコミュニケーションを改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】
今回のアサーショントレーニングでは、事例をもとに職場でのちょっと困った場面での実践的なコミュニケーションについて考えていきます。
本題に入る前に、以前の記事を読んでいない方や内容を忘れてしまった方向けに、簡単に内容を振り返ります。アサーションがある程度分かっている方は、復習はとばして「2.アサーションでママ友とのコミュニケーションを改善する」から読んでください。
前回までの復習
第1回の復習:アサーションとは
アサーション第1回では、コミュニケーションのパターンを以下の3つに分けて考えました。
- 自分の意見ばかりを主張する「ジャイアンタイプ」
- 消極的で自己主張するのが苦手な「のび太くんタイプ」
- 自分の意見も相手の意見も大事にする、さわやかな自己表現ができる「しずかちゃんタイプ」
「しずかちゃん」のコミュニケーション方法が一番理想的ではあるけれど、常に「しずかちゃん」である必要はなく、自分の意思で「のび太くん」と「ジャイアン」を選択することができるのが、アサーショントレーニングの目指すコミュニケーションだというお話をしました。
第2回の復習:アサーショントレーニングの方法とコツ
アサーション第2回では、アサーションの方法としてIメッセージと4ステップのコミュニケーション法を学びました。
Iメッセージとは「私は」を主語にしたメッセージのことで、たとえば「早くしなさい!」→「私はあなたに急いで欲しい」というようにメッセージを伝えることで、ネガティブな気持ちでも相手を責めるニュアンスではなく、客観的な情報として伝えることができます。
4ステップのコミュニケーションは、下記のステップを順に行うことで相手の気持ちを害することなく、はっきりと気持ちを伝えることができる方法です。
もし、アサーションのことがよく分からないという方は、第1回と第2回の記事を先に読んでおくことをお勧めします。
①アサーションとは【ドラえもんで理解するアサーション】
②アサーショントレーニングの方法とコツ【ドラえもんで理解するアサーション】
③夫婦関係を改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】
④育児コミュニケーションを改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】
⑤ママ友との関係を改善する【アサーティブコミュニケーション実践編】
職場でのコミュニケーション
ただでさえ気を遣うことの多い職場でのコミュニケーション。そこに、女性ならではの難しさが加わってくる時もあります。
たとえば、
不妊治療を受けているので休みを取りたい
妊娠中の体調不良で休みを取りたい
産休/育児休暇の申請
産休明けの職場復帰
今回はそのような状況で、どのような対応をすることができるのか、少し考えてみましょう。
事例1:妊娠中の不調を理由に退職を迫られる
事例1:妊娠中の不調
契約社員として、飲食店でお店のことをほぼ任されている状態で勤務していました。自分より少し先に妊娠したパートさんがいたのですが、その方はつわりの症状もほぼなく、お腹が大きくなるまで何の不調もなさそうにそれまで通りに勤務していました。
ところが、自分が妊娠すると、つわりが重く、パスタを茹でる際の湯気が辛くて仕方ありません。仕事をするのが非常に辛く、それを店長に伝えると「妊娠してる奴は来なくて良い」「辞めてくれて良い」と言われてしまい、体調も辛かったのですぐに退職することにしました。
職場で妊娠出産の前例がない場合も少なくないと思います。そのような場合も自分が開拓者となるので大変です。しかし、前例となる方が何の問題もなく働けていた場合も、次に妊娠した方がつわりなどの体調不良、切迫流産、切迫早産など安静にすることが必要であった場合、それを職場側がどの程度理解してくれるのか不安になるのではないでしょうか。
上記は、妊娠中の不調を理由に不当な解雇にあった事例です。
この場合、どのように対応することができたのか、考えてみましょう。
事例1の対応例①
ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
急にシフトに穴を開けてしまうと、店長も困りますよね。ただ、つわりが本当に酷くて、湯気の匂いを嗅ぐだけで吐いてしまいそうなんです。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
つわりが落ち着く、安定期に入る頃まで、お休みをいただくことはできないでしょうか。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
ステップ4は相手の対応によって変わってきます。
(相手が休みを許可してくれた場合)
ありがとうございます(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
(休むことを許可してもらえなかった場合)
そうなんですね。では辞めることも検討させてください。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
事例1の対応例②
申し訳ありません。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
体調が悪いと、皆さんにご迷惑をおかけしてしまいますよね。ただ、妊娠を理由に辞めろと言われるのはとても辛いです。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
契約社員が妊娠した場合の、職場での補償など、教えていただけると嬉しいです。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
(調べて伝えると言われた場合)
ありがとうございます。お忙しい中対応していただけて嬉しいです。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
(補償なんてない、知らないと言われた場合)
そうなんですね。わかりました。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
あるいは、このように返す方法もあります。
そうなんですか。私から本社の方に確認させていただいてもよろしいでしょうか?(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
妊娠出産に理解のない職場で、妊娠中や産後も働き続けることを選ぶのか、ということも選択肢には入ってくるかと思います。しかし「辞める」という決断をする前に、交渉したり、補償を確認したりすることもひとつの方法ではあると思います。
事例2:事務手続きをしてもらえない
事例2:事務手続きをしてもらえない
妊娠中の体調不良を理由に退職することを決めました。健康保険証の手続きをするために、退職してすぐに保険証を返却したのですが、なかなか脱退証明書を出してもらえません。一緒に働いていた同僚に、「まだ手続き終わってないのかな」と、さりげなく連絡をとって聞いてみると「事務所のデスクに置いたままになってたよ」と教えてくれました。
怠慢なのか、嫌がらせなのかはわかりませんが、円満退社であってもなくても、必要な事務手続きが進められていないこともあるようです。
このような場合には、どのように問い合わせると良いでしょうか。
事例2の対応例
今、よろしいでしょうか。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
お忙しいところ申し訳ありません。病院にかかりたいのですが、脱退証明書がないと健康保険証の手続きができなくて、病院にかかることができないんです。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
来週には受診したいので、今週中に脱退証明を出していただくことは可能でしょうか。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
(相手が承諾してくれた場合)
ありがとうございます。とても助かります。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
(忙しいから間に合わない、などと言われた場合)
では、いつごろでしたら可能でしょうか。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
特に、事務手続きが滞っているような時には具体的に「いつまでに」と期限を伝えた方が、相手にも伝わりやすいです。
「なるべく早く」と伝えると、それは「明日」なのか「1ヶ月先」なのか、時間感覚は人によって異なるため、いつ頃行動を起こしてもらえるのかがわかりません。
事例3 時短勤務での仕事のやりがい
事例3:時短勤務
育児休暇から明けて、時短勤務で以前の職場に戻ってきました。妊娠前にメインでしていた仕事を外されており、最初は「そういうものなのかな」と思っていましたが、他のグループの方に聞いてみると、時短やパートに関係なく、自分が妊娠前にしていたのと同じ仕事をしていると教えてくれました。自分は毎日ルーチン作業しかなく、「成果が出づらい状況を作られているのかな」と感じています。
仕事で成果を出しづらい、感じづらいというのは、人によってはとても苦痛になるのではないでしょうか。やはり、成果を感じることができるからこそ、「よし、また頑張ろう」という原動力になるのだと思います。
事例3の応答例①
お疲れ様です。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
時短で勤務させていただいて、助かっています。ただ、今の仕事だとなかなかやりがいを感じることが難しくてしんどくなることがあります。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
少し以前のような仕事を振っていただくことは可能でしょうか。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
(相手が承諾してくれた場合)
ありがとうございます。嬉しいです。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
(時短だからそれはできないと言われた場合)
以前やっていた仕事の○○だとどうでしょうか(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
あるいは、以下のように受け入れるという選択肢もあります。
そうなんですね、残念です。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
事例3の応答例②
今、少しお時間いいですか?(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
今、妊娠前にしていた仕事をしていない状況なのですが、出来る範囲でやりたいと思っています。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
少し、仕事を振っていただくことは可能でしょうか。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
(相手が承諾してくれた場合)
ありがとうございます。嬉しいです。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
(時短だからそれはできないと言われた場合)
そうなんですね、残念です。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
以前やっていた仕事の○○だとどうでしょうか?(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
「成果を出しづらい状況を作られてるのかな?」と感じても、なかなかそれを直球で上司に伝えることは難しいのではないでしょうか。それならば、今自分が抱えている疑問やモヤモヤを解消するためには、どのような変化があれば良いのかを考えてみましょう。
それが「やりがいを感じることのできる仕事をしたい」ということであれば、上記のように交渉してみても良いです。「やりがいよりも、まずは時短で家のことをする時間を確保するのが優先」でも、もちろんかまいません。
その場合は、「負担のないように仕事を割り振っていただきありがとうございます。おかげで家のことがしっかりできるので助かります。」など、言葉のプレゼントを上司に贈ると、上司とのコミュニケーションが今後とりやすくなるはずです。
事例4 上司の言い方が気になる
事例4:上司の言い方が気になる
出勤している人数が多く、人員に余裕がある日に、最短の勤務時間で帰らせてもらえるように上司に申し出ました。そうすると「帰りたいなら帰っていいよ」とそっけなく言われてしまいました。「早く帰りたいから、時短勤務を利用してるのに」となんだかモヤモヤします。
事例のような言い方をされると、「そんな言い方しなくても…」と思いますよね。こんな時、どう対応するのが良いのでしょうか。
事例4の応答例
すみません。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
いつも時短で勤務させていただいて助かっています。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
では、時短の最短時間で勤務を終了させていただきます。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
ありがとうございます。また明日、よろしくお願いいたします。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
このような場面では、ステップ3の具体的な要求、交渉というよりも、「早く帰りたいから時短勤務なんだよ〜」ということを、改めて伝えることの方が重要になるのではないでしょうか。
そのため、ステップ2で「時短で勤務させていただいて助かっています」「子どもに手がかかるので、時短勤務でありがたいです」など、Iメッセージを伝えられるのが良いのではないかと思います。
教科書的に応答すると、下記のようになるのかもしれません。
そうですねぇ。(ステップ1:状況を受け止める/気持ちを落ち着ける)
早く帰る人がいると、ちょっとモヤっとされますよね。ですが、家のことなどやることも多いので、時短で帰らせていただくことで、とても助かっています。(ステップ2:相手に共感を示しつつ、自分の気持ちを伝える)
今日は早めに上がらせていただきますね。(ステップ3:要望を具体的に伝える)
ありがとうございます。(ステップ4:行動を選択する/交渉する/気持ちを伝える)
ですが、この「早く帰る人がいると、ちょっとモヤっとされますよね」というYouメッセージはちょっと嫌味ですよね(笑)
何も言わずに、ただ時間通りに帰宅するという選択肢もありますが、自分がモヤッとする気持ちを抱え続けるのは辛い場合には、「早く帰りたいから時短勤務なんです」ということを、シンプルに伝えられるのが良いのかもしれません。
まとめ
私は今回、皆さんはどんなことで困っているんだろうかということを知りたくて、「職場で困った経験はありますか?」というアンケートを取らせていただきました。そこで「マミートラック」という言葉を初めて教えていただきました。
マミートラックというのは、育休明けに仕事復帰した女性が、子育てと仕事を両立していく中で、昇進や昇給などの機会が難しくなるような働き方をさせられることを言うようです。
事例3の困りごとを教えてくださった方は、「気を遣ってもらっているような、マタハラのような…」という感情を抱いたと教えてくださいました。マタハラと感じるような気遣いは気遣いと言えるのかな…と私は感じますが、人によって感じ方が異なる部分なので、非常に難しい所だと思います。
だからこそ、せめて自分からは、率直に、アサーティブに思いを伝えることができると良いのかもしれません。
ただ、今まで「アサーティブにいること、Iメッセージを伝えることは大事ですよ」と何度もお伝えしてきましたが、日本はまだまだ“出る杭打たれる”文化でもあります。
Iメッセージはとても大事ですが、それをあまり意識しすぎると「自己主張が強いな」という印象を抱かれる可能性もあるため、「どれくらい自分の意思を伝えるか」というのは難しい問題です。しかし、「ここは絶対に譲れない!」という所はしっかりとIメッセージを用いて伝えるなど、バランスよく主張できるようになると良いですね。
今回で、全6回のアサーショントレーニングは最後になります。皆様のお困りごとに少しでもお役に立てたのであれば幸いです。お付き合いいただき、誠にありがとうございました。