⑧Withコロナの応募・採用(前編)「わたしの幸せをつくる転職活動」
皆さん、こんにちは。公認心理師/臨床心理士/キャリアコンサルタントの山本智代です。「わたしの幸せをつくる転職活動」をテーマに、効果的な転職活動の進め方について連載しています。
本連載では、キャリア・プランニング・プロセスという方法に則り転職活動を行うことを勧めており、前回はキャリア・プランニング・プロセスのステップ7「教育・訓練」として、 目的をもって教育訓練を受ける必要性についてお伝えしました。
キャリア・プランニング・プロセス
- 意思決定の必要性の自覚・・・転職の必要性を判断
- 自己の再評価・・・職業経験の振り返り、興味・能力・価値観の見直し
- 職業・仕事の特定・・・職業・仕事の絞り込み
- 選択肢に関する情報収集・・・絞り込んだ職業・仕事の情報を様々な手法で集める
- 仮決定・・・ステップ3で絞り込んだ職業・仕事から1つの選択肢を選ぶ
- 教育・訓練・・・必要があれば、資格取得やスキル向上の教育・訓練を受ける(前回)
- 転職・異動・・・ステップ5で選択した職業・仕事への応募、応募書類の作成、面接
前回までの記事をご覧になっていない方はぜひこの機会にご一読いただければと思います。
②【自己の再評価】転職を決めたら、まずやること「わたしの幸せをつくる転職活動」
③職業・仕事を特定する(前編)「わたしの幸せをつくる転職活動」
④職業・仕事を特定する(後編)「わたしの幸せをつくる転職活動」
⑤職業情報を集めるコツ「わたしの幸せをつくる転職活動」
⑥仮決定をする「わたしの幸せをつくる転職活動」
⑦教育・訓練を受ける「わたしの幸せをつくる転職活動」
今回はステップ7「就職」についてお伝えします。本ステップでは、より自分にとって満足した仕事に就くために、ステップ5で仮決定した「職業・仕事」と「企業」をマッチングしていく作業です。
自分と合う企業を見つけるポイント
就職活動は、その企業の未来に共感・賛同して仲間になる活動でもあります。そのような企業を見つけるポイントは、「自分」と「企業」の共通点を見ることです。主に下記の3つを軸に共通点を見ていきましょう。次回お伝えする応募書類や面接の「志望動機」と「自己PR」の内容とも繋がります。
①能力のマッチング
自分の経験や能力と、企業が必要としている能力が合っているかチェックしましょう。
このときに役立つのが、ステップ2で作成した「自己の再評価」です。各仕事内容の「能力」の項目を改めて見直しましょう。今までの職業経験の中で「志望企業が求める能力」もしくは「汎用できる能力」があるでしょうか?特に「汎用できる能力」は自分1人では見えづらい部分もあります。この段階で改めてキャリアコンサルタントと一緒に整理するのも有効かもしれません。
②価値観のマッチング
自分が大事にしたい価値観と、企業が大事にしたい価値観が合っているかチェックしましょう。
企業を知るひとつのツールとしては、職場情報総合サイト「しょくばらぼ」があります。職場改善に積極的な企業の職場情報を検索したり、複数企業を比較したりできるWebサイトです。こちらのサイトは、Web版ハローワークインターネットサービスや、以前に紹介したO-NET職業情報提供サイトと連動しています。また、健康経営、ダイバーシティ、障害のある方の雇用など、各カテゴリーで認定や表彰を受けている企業が実名で公表されており、該当企業の求人もチェックすることができます。
また、自社のホームページや様々なツールで「企業理念」等を通じて詳細に発信している企業もあります。
③環境のマッチング
自分にとって必要な環境と、企業側の環境が合っているのかチェックしましょう。
給与形態等の物理的条件はさることながら、例えば、心身の健康を維持して働く土台としてはどうか、多様性が尊重される風土かどうか、教育・キャリア・アップ制度がどの程度充実しているか、人材育成についてどのような方針か、等も挙げられるでしょう。
また、下記のどちらの環境に比重の多い方がよいのかも、力の発揮のしやすさに影響が出る部分かもしれません。
- チームでの仕事 or 1人でできる仕事
- マニュアルがある or 自由裁量/臨機応変な対応
- 綿密で直接的なコミュニケーションを求められるか or そうでないか(例えばチャットでのコミュニケーションが主である等)
人は、環境によって力の発揮の程度が異なる場合が少なくありません。例えば、同じ能力でも、Aという環境ではその能力が存分に発揮されやすい場合と、別のBという環境ではその能力が発揮されにくく、むしろ課題として出てきたりする場合もあります。世間一般の基準ではなく、「あなたにとって、よい環境とは何か」を吟味してみましょう。
● 配属先の人たちとの相性について ●
新卒採用とは異なり、中途採用の多くは「ポジション」採用です。配属部署の上司や周囲と相性が合うかどうかも会社に見られるポイントの1つでしょう。しかし、求められる人物像をある程度把握することはできたとしても、相性は自分だけで決められるものではありません。最終判断は相手に委ねることを着地点にし、「相性は自分だけで決められない。仮に不採用が決まったのなら、相性の部分も含めてたまたま合わなかったのかもしれない」「仮に相手に合わせて一時をしのげたとしても、就職後も合わせ続けるのはしんどいことだろう」と前向きに捉えてみましょう。
求人の探し方
次に、自分を企業でどのように役立てられるかを知るために、企業が応募側に求めるものを知る必要があります。その手がかりの一つが、求人です。
では、求人をどのように探していくかを具体的に見ていきましょう。
①モノ(求人票)から探す
1つめは、モノ(求人票)から探す方法です。求人には主に顕在求人と潜在求人があります。
顕在求人
公募されている求人のことです。
情報源としては、ハローワーク求人※(Web版ハローワークインターネットサービス)、求人情報サイト、広告、企業のホームページ、合同企業面接会、求人情報誌、人材紹介会社、人材派遣会社、地方自治体の就職支援サイト、地方へのU・I・Jターンや各業界に特化したサイトなどがあります。
※ハローワークでは、2021年9月からオンライン上での自主応募が可能になりました。ハローワークに出向かなくても、マイページ登録をすると応募・面接の手続きが自分でできるようになっています。障害者求人への応募については従来通りです。
潜在求人
公募はされていないけれども、採用意向がある場合(退職予定者の後任や新規事業の適任人材が社内にいない等)や、より貢献度の高い人材がいれば欲しい場合の求人のことです。
情報源としては、経済誌・業界誌(各社の新規事業進出、新商品開発、新会社設立構想等の発表記事、新分野の注目企業など)、各分野で働く知人、人材紹介会社等のコンサルタント、キャリアコンサルタントなどがあります。
アプローチ方法としては、採用決定権者に対して、応募書類やメールを送るなどして、ダイレクトに採用を依頼することです。応募先からの反応率は、健在求人に比べると低くなる可能性はありますが、競争相手は少なく、採用決定権者を直接説得できる可能性があります。
例えば筆者は、夜間の心理系大学院に通学しながらフルタイムで働いていたのですが、その際、この潜在求人から採用に至りました。筆者の当時の必須条件が、夜間の大学院に行くために必要なエリアや勤務時間、最低限必要な収入などの物理的条件(環境)でした。そこで、大学院修了後の進路を見据え、就労支援の経験(興味・価値観)×物理的条件(環境)でアプローチをしました。
同業の知人から情報収集しながら大体の目星をつけ、就労支援機関に1件1件電話をしたのです。「今までの○○の経験を貴社の◎◎に貢献できると思う。ただ、□□という事情があり、△△という条件で働かせていただきたい。ぜひとも一度、ご面談の機会をいただけないでしょうか」という流れです。その結果、必須条件を全て満たして採用を頂けるところが1社ありました。
このように条件や目的が明確な場合、ピンポイントで的を絞った潜在求人へのアプロ―チを視野に入れてもよいかもしれません。
②ヒトから探す
求人を探す2つ目の方法は、個人のネットワークや人材紹介会社等のコンサルタント、キャリアコンサルタントなど、人経由で求人を探すケースです。
希望する分野で働いている知人や、ネットワーク構築が役割の一つでもあるコンサルタント等が重要な情報源となる場合があります。コラム⑤「職業情報を集めるコツ」でお伝えした「自分がやってみたいこと、将来の希望は、言葉にして口に出す」「仲間を得る」がここでも有効に働くかもしれません。
③体験から探す
求人を探す3つ目の方法は、職場見学、職場体験、各種プログラム体験、短期就労など、自身の体験をきっかけに探す場合です。
現在は、各都道府県で「コロナ離職者向けプログラム」が運用されているケースもあります。例えばある都道府県では、1か月間、15万円の給与支給とキャリアコンサルタントのサポートを受けながら、研修や職場見学を経て、一定期間で就労を目指すプログラムがあります。その他、職場見学や職場体験のサポート、若者や就職氷河期世代など、対象を絞ったプログラムを設けている自治体もあります。プログラムの活用や期間限定の短期就労等で興味や能力を試し、それを足掛かりに求人を検討するのも一つの方法です。
複数の求人を比較検討する場合
複数の選択基準について、重視する程度を見ていきましょう。例えば、「必須なもの(他の条件をいくら満たしていたとしても譲れないもの)」「できるだけ満たしたいもの」「諦めてもよいもの」などで、各求人を評価してみましょう。ここで改めて「自分は何を優先して大事にしたいのか」を再検討することで、必須と思っているものが実はそうでなかったり、はたまた逆であったりすることもあります。
不安や焦りばかりで実際の行動に移せない時
マッチングの作業は、知らない相手を知っていくプロセスでもあるので、時間と労力のかかることでもあるでしょう。ずっと就職活動のことを考えるのは気が滅入る場合もありますし、不安や焦りで頭がいっぱいになるだけで実際の行動には移せない場合もあるかもしれません。
そんなときは、行動(今の自分にできること)に注目してみましょう。自分の意志だけでその行動をすることが難しい場合は、短時間でいいので「行動できる環境」を物理的に作ってみましょう。
行動できる環境を作る例
・毎日1時間は、ピックアップした求人の企業研究の時間にする。
・3日に1回のペースで、30分だけ求人検索する。
・それぞれの開始と終了時間を決め、アラームが鳴るように設定する。
その他には、カウンセラーに「次のカウンセリング予約までに、〇〇をする宣言」をして、自ら行動を促す工夫をされる方もいらっしゃいます。
こうすることで、単に「求人がない」と嘆くのではなく、「自分にとって必要な行動はしたが、今日はたまたま出会わなかっただけ。見過ごした求人もあるかもしれないが、それはご縁がなかったのかもしれない。今日も自分にできることをやれた」と、肯定的に就職活動を進めることにも繋がります。
目的に向かうとき、自分にとって、どのようなやり方なら行動しやすいか、どのようなバランスがよいか、試行錯誤するチャンスかもしれませんね。
まとめ
自分と企業とのマッチング作業は、知らない相手を知っていくプロセスでもありますが、「わからないことを知っていく楽しさ」に自分をおいてみるとどうでしょうか?
例え予想外の情報でも、「知ることができた」「気付くことができた」と捉えてみましょう。「多様な自分に出会うチャンスを得ている自分」に気付くとき、新たな自分に出会うとき、それはきっと嬉しいことでしょう。
先行きが不確実なWithコロナ時代の採用キーワードのひとつは、「変化」です。次回はWithコロナ時代の「変化」をどのように捉えて自分をセルフプロデュースしていくか、応募書類・面接のポイントをお伝えしたいと思います。
著者の山本先生にオンライン相談(有料)もできます。詳しくは、下記プロフィールの「紹介ページを見る」をクリックしてみてください。
著者プロフィール
山本 智代(やまもと ちよ)
公認心理師・臨床心理士・キャリアコンサルタント
ココロト オンラインカウンセラー
教育系大学を卒業後、人材総合コンサルタント企業での人材育成・派遣事業、教育関連企業での進路セミナーの企画営業に携わった後、官公庁、ハローワークの採用・キャリア支援の勤務を経て心理系大学院へ進学。卒業後は、心理とキャリアに関する専門家として、行政機関での乳児・幼児・児童の発達・教育相談、ハローワークでのキャリア・心理カウンセリング、スクールカウンセラー等に従事。さらに、女性のキャリア、仕事と子育ての両立などをテーマにしたキャリアカウンセリングやセミナーに携わっている。